○十月一日(火) 晴 冷
午後、みかげ。猪井さん等に会う。
永積さん、評議員に当選のよし。
発信 醇郎 岩波、漱石全集
受信 秋田和美
○十月二日(水) 晴 暖
午前、兒玉医院。御影分校。楠さんに会う。岡田正三はけしからん人間なり。
午後、入浴。
岡田正三は冷酷な人間だ。かれを教授にしたのは、文学部の大失敗。
田口憲治、どこかへ転任のよし。
おそらく、岡田正三はシットだろう。あわれな存在だ。余りに人気があるからだろう。
『心』をよむ。こういう小説は感心しない。
三田さんももう少しアクティヴに動くといいのだが。全く頼りない人間だ。
陽子の誕生日。
発信 秋田和美
○十月三日(木) 晴 暖
午後、みかげ。今井さんに会う。経濟状態を話す。かなりこたえたにちがいない。経濟の角度から見ることを説く。恩給の問題。その他。学長と相談するだろう。
岡田正三は困った人間だ、という話。大きいなりをして、しみったれているのには驚く。ヒステリーの女学生のようなものである。
『心』をよむ。
学長が積極的に動かねばならない。それが学長の責任だ。
発信 古林㐂楽 中村吉治
○十月四日(金) 晴 暖
午後、みかげ。注射。古川君が本をもってくる。
岡田正三コレラで死ねばよい、といった人がある。とにかくおかしい話だ。講義がつまらないというなら話も分るが、そうでない。つまらないあげ足とりである。かれにはファシストの素質がある。武市と同じように。
『門』をよむ。余り面白くない。
発信 醇郎
○十月五日(土) 晴 暖
『弁証法』の校正(四二ページまで)着。
ソ連、人工衛星打上げに成功。
校正を見る。
岡田というのは正体が分らん。会えば調子がいいが、何を考えているか分らん。おそらくファシストだろう。
『弁証法』はかなり厚くなりそうだ。二五〇ページ位だろうか。
『門』をよむ。
やはり学長が積極的にのり出さねばならない。それが鍵だ。
『弁証法』は反響をよびそうな気がする。たしかに、独創的なものである。新しい領域を開拓したものである。
発信 保坂冨士夫
受信 和郞
○十月六日(日) 雨 冷
午前、兒玉医院。
秋田さんから手紙。写眞が入っている。
どうも女は感情的でこまる。
『門』をよむ。讀了。どうもこういう小説はやり切れない。
志水さんから貰ったぬり薬をぬる。チンク油よりはよさそうだ。
受信 秋田和美
○十月七日(月) 晴 暖
午後、大阪。阪大皮フ科へ行く。志水さんに会う。創元社へ。保坂氏に会う。二三〇ページ位、百七、八十円位。十月中に本にする。校正、七六ページまで。
延世、今日休む。
校正を見る。
『人民』の原稿を書く。
神戸大学の奴等をおどし上げてやろう。ああいう連中では理屈をいっても分りはしない。「死ぬ」といっておどし上げることだ。全く情く(ママ)ない、知性のない、見識のない人間どもだ。
発信 三上陸
受信 政界往來社
○十月八日(火) 晴 暖
午後、みかげ。みかげから三の宮へ。古川君に会う。
二度目の中秋の名月。
創元社へ校正を送る。
『人民』の原稿を書く。
若い人たちの間に人気があると、老人はシットする。岡田正三。ソクラテスはそのため殺された。
『弁証法讀本』ができるのは、やはり楽しみだ。たしかに、ユニークな書物だ。これが何かのきっかけになることをのぞむ。
自殺説のアドバルーンをあげよう。
NY株暴落。今年の新安値。
発信 秋田和美
○十月九日(水) 晴 暖
午前、兒玉医院。みかげへよる。
午後五時半、中突堤へ。別府航路の島田さんの新婚旅行を送る。永積さんの奥さんに会う。
『人民』の原稿を書く。
人工衛星でアメリカ大あわて。戦略体制をすっかりかえねばならないだろう。
大学の先生にも全くいやらしいのがいる。人間としては魚屋、八百屋以下である。
井上庄七君もぼくに会うとうしろめたいような顔をしている。うしろめたいことをしなければいいのだ。バカな連中だ。
○十月十日(木) 晴 暖
休養。
午後、入浴。
大学の教師にもいやらしいのがいる(岡田)。人間として最下等だろう。いやらしいシットが根源。
人工衛星の影響は深刻だ。NY株も、日本の株も深刻だ。
『人民』の原稿を書く。
神戸大学の責任、を誰も頰かむりですましている。いやらしいものだ。大学らしくない。
志水さんがアンエンカ軟膏をつけたらどうかという。どうやらいいらし。
受信 三上陸
○十月十一日(金) 晴 暖
午後、みかげ。パニールチン3号の注射。靑木君に会う。
アエンカ軟膏はよくきく。シッシンもどうやら今度は本当にいいらし。
NY株又大暴落。
今井さん等の皮肉の親切。
『人民』原稿終了。三〇枚。
楠さんにも思い上りがある。それが反感をかう。
発信 政界往來社
受信 三上陸 保坂冨士夫
○十月十二日(土) 晴 暖
三上君へ原稿を送る。
午後、みかげ。社研のコンパ。
一つの陰謀か。楠さんも單純だ。
又『それから』をよむ。やはり漱石は面白い。
この頃は秋らしい気候がつづく。一年中でも一番いい頃というものだろう。
今井さんにもあれだけいったからこたえたと思う。これでもごまかすようなら、おどすより外あるまい。
○十月十三日(日) 晴 暖
午前、のぶよといっしょに兒玉医院へ行く。延世、血圧一二〇。丁度いい。
午後、日文協例会。猪井さんの『それから』の報告。榊原さんと白ダンへよる。後から猪井さんがくる。
『愛の証言』をよむ。
一つ岡田さんのドギモをぬいてやろうか。それがいい方法らしい。頼みこむのもいやらしい。神大の責任を説いても通じない。
○十月十四日(月) 晴 暖
午後、みかげ。岡田、三田に会う。ともにうしろめたいような顔をしていた。うしろめたいことをしなければいいのだ。岡田も、会うと調子はいいが、かげで何をしているか分らない。小川君、永積さんに会う。白ダンで永積さんに狀勢をはなす。
樋口金吾から金がくる。
『愛の証言』をよむ。かなり表面的だ。
哲学科のつめたさ。ヒューマニズムがない。冷酷ともいえる。驚いたものである。岡田の二重人格。古林、今井も何を考えているか分ったものではない。しかし、楠さんもその中にとっちめる必要がある。
二一二・〇〇〇円 現在高
三九一・三一八円
過去一ヵ年、農地の金へくいこんだ額、約三七万円
発信 秋田和美 湯川和夫
受信 樋口金吾 湯川和夫
○十月十五日(火) 晴 暖
午後、富士銀行灘支店へ。御影分校へよる。ガイダンスの日。岡田さん等に会う。
岡田正三というのはどうも正体が分らない。調子はいいが、何を考えているか分らない。
『愛の証言』讀了。かなり浅い。
山元一郎をひっぱってきたことも甚だ奇怪である。山元一郎も、承諾したことも奇怪である。ことわればいいのだ。かれの不徹底の所以。
山元一郎の代りに僕に近世哲学史の講義をやらせればよかったのだ。全く人を侮辱した話だ。しかし、これから哲学科へ少し積極的に働きかけよう。大事なときだ。來学期のために
九月は天気が悪かったが、十月は珍しくいい。暑からず、寒からず、いい気候というものだ。
『弁証法讀本』にはかなり期待している。時期はいいし、一万を売れるとかなり助かる。金は約四〇万。農地の金は終り。これからはよほど考えねばならない。二十万で半年すごすこと。
発信 樋口金吾
○十月十六日(水) 曇 暖
午前、兒玉医院。みかげへよる。神戸銀行御影支店で家賃を拂う。
入浴。終始一人。
『人民』十月号着。
リポート六篇着。
『陷没の世代』をよむ。面白い。
シッシン、ほとんどよろし。
近世哲学史は当然ぼくにやらせるべきだ。ここに今井、岡田の反動性がある。
これからはズケズケ物をいってあばれてやろう。遠慮することはない。
山元のような身上相談の専門家をつれてくるのもおかしな話である。ロール・バック、ポリシー。活溌にやろう。遠慮していることは何もない。
発信 三上陸
受信 三上陸
○十月十七日(木) 雨後晴 強風 寒
強風。急に寒くなる。夜、室内十五度。昨日より十度も低い。
午後、みかげ。注射。
山口さんから薬着。
『陷没の世代』をよむ。面白い。
受信 山口栄子
○十月十八日(金) 晴 寒
午後、区役所。転入の手続き。みかげ。注射。三映へ行き、「純愛物語」を見る。佳作。
ニューヨーク株、ロンドン株暴落。
今井、岡田の陰謀、なかば失敗。そんなことは通用しない。
『陷没の世代』をよむ。
アメリカの動揺は深刻だ。アメリカの経濟の土台そのものも、根柢から揺れはじめた。
○十月十九日(土) 晴 寒
午後、散髪。
『陷没の世代』讀了。面白い。
『純愛物語』の批評もいくつも出ているが、一番つまらないのがアカハタ。
今井さんがまだごまかすなら、責任問題を出す。楠さんも一度とっちめる必要がある。これからは少しテキパキやっつけてやろう。
受信 山本晴義
○十月二十日(日) 曇 暖
午後、大阪。上六、浪速莊へ。五時から民科哲学部会。山本晴義氏の「大衆社会論」。約十人。
午前、兒玉医院。
日本のコミュニストの頭をかえねばならない。それをやらなければ、日本の党はのびない。
発信 山本晴義 後藤宏行 三上陸
受信 三上陸
○十月二十一日(月) 晴 暖
みなと祭。ミス・コウベの花自動車が通る。
午後、みかげ。岡田さん等と会う。研究発表はお流れ。猪野さん、猪井さんに会う。
『それから』をよむ。
森さんにも困りものだ。コミュニストのもっとも悪いタイプだ。
○十月二十二日(火) 晴 暖
午後、富士銀行灘支店へ。ミス・コウベを見る。御影分校へ。井上(庄)君、小川君等に会う。
『弁証法』の校正、つぎが出たよし。
NY株又大暴落。
『それから』をよむ。
預金高 三六一・七四二
現金を足すと約四〇万、
発信 醇郎
受信 醇郎
○十月二十三日(水) 晴 暖
午前、兒玉医院。みかげへよる。
午後、入浴。シッシンもまず全快といっていいだろう。
校正(七七~一一二)着。
NY株續落。
校正を見て創元社へ送る。一一二ページまでだが、これで大体半分だろう。しかし、これから先が面白いところで、この書の中心部分である。この書のできるのは楽しみである。おそらくこの前より反響をよぶだろう。今週中に初校は全部出るだろう。出版は十一月中旬か。少しおくれたが、まあ時機はいい方だ。ベスト・セラーになるといいが。むずかしいが、ならないとはいえない。ベスト・セラーでもなくても、一万位売れるといいが。たしかにマルクスの本では劃期的だ。
発信 伊藤一美 創元社
受信 伊藤一美
○十月二十四日(木) 晴 暖
午後、みかげ。小川君に会う。流泉へ行き、古川君に会う。
森さんの件。左翼警察官。
井上幸治さんへ弔電を打つ。
『ナポレオン』をよむ。
○十月二十五日(金) 曇 暖
校正、一一三~一六六ページ、着。あと四〇ページ位で終るよし。明日着く。
午後、みかげ。杉島君等に会う。
夜、校正をみる。見終って、創元社へ送る。この本はかなり問題になるにちがいない。
発信 山本晴義 保坂冨士夫 山口栄子 秋田和美
受信 山本晴義 山口栄子 保坂冨士夫
○十月二十六日(土) 曇 暖
校正、一六七~二二二ページ、着。ページ数は大体予定通り。
午後、みかげ。理論部会。
夜、小川君といっしょに井上さんを訪う。
校正を見終る。
岡田さんもけしからん人間だ。それよりもけしからんのは学長だ。今の狀勢なら、学長が態度をはっきりさせたら十分復歸可能だ。だらしのない、腰ぬけの人間だ。他方、小川、井上、永積等ぼくのことをシンケンに考えてくれている人もいる。
○十月二十七日(日) 晴 暖
午前、兒玉医院。
校正を創元社へ送る。
古林学長はよろめき学長。
発信 保坂冨士夫
受信 保坂冨士夫
○十月二十八日(月) 晴 暖
午後、みかげ。哲学研究室で「ハイデッガー」の研究発表あり。小川君、岡田さんに会う。のち、岡田さん、井上(庄)君に会う。例の件か。
リポートをよむ。まあまあという所、
岡田さんは、何か考えこんでいるように思われた。果してどうだろうか。今日の研究会は、たしかに僕にとっていい結果を生じたと思う。それですぐある結果が出るとは速断できないが。とにかく、何か新しい転回があるのではなかろうか。思いすごしだろうか。小川君に会うと分るのだが。
○十月二十九日(火) 雨 冷
午後、大阪。創元社へ。再校が出はじめる。五時、梅田。航空ビル地下で山口さん、秋田さんに会う。民科について相談。
森さんには全く困ったものだ。あれでは仕方がない。
岡田さんにも心境の変化が起ったのではなかろうか。
○十月三十日(水) 晴 冷
午前、兒玉医院。みかげへよる。
午後、朝日会館で「炎の人ゴッホ」をみる。美しい映畫。
校正、四二ページまで、創元社へ送る。
『弁証法讀本』も十一月中にはできるだろう。予定より一ヵ月おくれ。その位は止むをえない。
前期リポートの点をつける。おまけ。計六人。多い方のよし。
一ヵ月かかって、初校が出始めから再校の出始めまで。三校までとるとしてもそう大してかからないだろう。
○十月三十一日(木) 曇 冷
午後、みかげ。注射。パニールチン、今日で終了。この次から又ミノファーゲン。
リポートの点数を出す。
再校、四三~七六ページ着。
二年前の今日、ビケンでレントゲン写眞をとった。もう二年たった。
校正を創元社へ送る。
山本君は相かわらずぼけている。
來年の四月にはどうしても神戸大学に何とかさせる。あくまでねばる。生死の問題で押して行く。
岡田正三にヒューマニズムがあるだろうか。人間といえるだろうか。井上さん、楠さんも余りに常識的だ。高い見方がない。