廿七日発の御手紙只今拝見いたしました 御手紙ノ赴き不明の点多く了解ニ困しみたる処に御座候
御文中御令妹に聞きしとハ誰の事ニ候や
又私帰宅の上相談いたすとの御事何の件ニ候や何も相談いたす程の事ハ之無く分りきりたる事と存じ候今の有様ニてハ何時頃帰国出来得るや計られず殊に此間の如き発熱等有之候てハ日ハ後れる許りニて心許りあせれどもいたし方之無く候或ハ三月末一寸帰国して為さねばならぬものならばそれ迠に御用意を願ひ置き一寸すまして五六日間滞御
郷に任地へ(多分大阪ならん)参る事にならんかと存じ候まゝ私の帰国をまち相談の上等にハ何も出来ぬ事と御承知願ひ度候
武平様に贈べき羽織や着物ハ代金にていたすのハ当正月御承知の御事と存じ候
それを只少々都合の上にて十日か二十日も早く贈るとの事丈にて何も相談するも考ふる必要もなき火を見るより明らかなる事ニ御座候
それを多くとハ時節柄なり誠にいろいろに出費多き時故申さず五十円位こしらへてと御願申上候処ニ候
羽織や着物代こしらへたとて一寸見らるる様なものならば五十円位ニハ仕上らぬものニ候 之れハ私が武平様のいろいろと今御金の必用の処を見て今金を贈らば好都合ならんと存じ申上候まで私の考方は■■如何
私の病気ハ其後だんだん熱減じ昨日より又毎日医家へ参り居り候間御安神下され度 此間の熱は手術のためと風邪と両方より来りたるものゝ様ニ候
昨冬気管支カタルを患ひてより全身非常に弱り殊に此度の手術ハ出血多かりし故身体一般に弱り居りつまらなき一寸したる事より直にいろいろの病を引き起し困り入り候
今日医家の帰りに正男氏に逢ひしに前にハ二月中ニてよろしからんと存じ候ひしが未だ全快いたさず今一度手術せねばならぬ故三月十日頃迠ハかゝると申し居られ候
いもじや小平孝吉といふ人と同人妹の人と二人にて先頃上京との事ニ候多分御療後ならんか
孝吉様の御話に今日あたりいもじや御兄上様及他の村の人二人許りと御上京との事ニ候が如何せられしや
此間御送り下され候金ハ先月の宿料と残りを本月の分に入れしに早や残り之無く困り有り候間来る六日頃迠に出来るならば二十円出来ずば十円至急御送り下され度願上候成るべく電報為替にて
もしやいもじやの御兄上様此後御上京ならば頼みて御送り下され度候
今日高木の奥様わざ御見舞に遠路を来られ候 此間ハ北沢あきの先生来り下され候
あゝ情ない親類らしき親類眞に叔父らしき又ハ叔母らしきものハ只宮原の叔父一人か他の人ハ見舞状一本だによこさず我の病むのを内心喜んで居るのか下古田ハ病人もある故殊別なり
実に畜生に等しきもの我とて何を以て叔父叔母等と思ふるか出来様あゝ頼み甲斐なしや
療後のため身体ハ日毎に衰ふ金無くば養生等も出来ず 私の病を少しハ心配になるならば一日も早く金を送って下さい 田でも畑でも売ってよこしてくれ命に変ふるものハ何もない
先ハ御願まで
いさ乃
一日
いさの
御両親様
御まえに