母上様
この間わ大変結構な品を有難うございました、有難く
頂戴しました、子供達も大喜びでいます、
私の本とゆうのわ次の3冊です、
①ドイツ觀念論批判、北隆館、B六、254頁、85円、3千部、
②これからの哲学、鈴懸書房、B六、約150頁、約60円、3千部、
③辨證法と実存哲学、芳恵書房、B六、約250頁、約90円、2千部、
今わ出版も予定通り行かず、予定よりおくれています、①わ一週間
程前検印を送りましたから、もう出るでしよう、②わ二月中、③わ
三月中にわ出る予定です、①わ専門的、②わ啓蒙的、③わ
昭和11年―15年に書いた論文集です、出來たら御送り
します、
今わ激しい勢で時代が進んでいます、学問でも同じ事で
古い頭でわ時代に附いて行くことさえ出來ません、哲学でも
古い權威わ既に廃品と化しています、池上鎌三、細谷恒夫、
金子武藏、この辺りわもう過去のものと云つて良いでしよう、
その位激しく動いているのです、現在および將來において役に
立つのわ甘粕石介、松村一人、山田坂仁、それに私と、その他数人
にすぎません、我々の權威とゆうものわ既に一般に認めら
れている所です、それに哲学の中心わ既に大学にわなく、民
主主義科学者協会哲学部会に移つています、哲学も書斎
における沈思黙考から生れるものでもなく、死んでから一書
残すと云つたものでもありません、世の中のことに構わず勉強する
のが哲学でわなく、毎日現れて來る所の、その時その
時の問題に対決するのが哲学です、哲学わアカデミズム
にあるのでわなく、ジャーナリズムにあります、私の”これから
らの哲学”も信州あたりで流行しているくだらない哲学を撃
するために書いたものです、哲学も根本的に変えなければならない
所に來ています、古い昔ながらの頭で判断するととんでもない
見当違いになります、出版会でも岩波書店わ急激に凋落しています、
私も御馳走をたべて漸く元気になりました、延世も人に会うと
太つたと云われてがつかりすると云つています、別にがつかりすること
もないのですが、子供達もよく太つています、陽子と紘一郎わ
たべすぎてお腹をこわすことがあります、紘一郎わどうも乱暴
な小僧で困ります、
この冬わ私が山形え來てから最も雪が少く、それに暖かで
楽な冬です、もうそう寒いこともないでしよう、全国的に暖いようで
す、
2月2日 攝郎