小松醇郎→小松いさの
1949年 月 日
①
御手紙二通拝見。
摂郎兄の件はそう心配せんでもいいです。
小生不賛成ですが本人が決心したんなら致し
方もない、外部から止めろと言へばかえつて
反撥して深入りする。人間の気持はそんなも
のです。暫くほつておく方がいいと思ふ。気
が狂つたのではないが一寸病気みたようなも
のです。
そう不名誉の事件と考えない事です。信州
あたりの共産黨員はロクでなしばかで私利私
慾ではいつているのです。論ずるに値しない。
摂郎兄は私利を顧みず一応理論的に公正な気
持ちで走つたのでせう。唯小生は摂郎兄の理
論は早分り、簡単な速断に過ぎると思ふ。彼の
著書何れを見ても分る如く簡明であるがそれ
は表面的に走つて深く掘り下げてない。早分
りは性格的のもので致し方ないのかもしれな
い。何かの機会に深く檢討し直す場合が生じ
たら反省する事もあるでせう。それ迄は外部
からつついて返って気持ちをそつちに向ける
②
のはまづいと思ふ。
神戸大学を止めさせられる事はまづあるま
いと思ふ。いまはどの大学にも黨員がある。
神戸大学は左翼の色彩が強いです。部長、学長
又は主任教授が右翼の人なら毛嫌ひされるが
まあ余り問題にしない人が多い。黨員の公務
員になるのを禁止する法律でも出たら失職す
るがその位は勿論覚悟しているだらう。
とにかく問題視して騒ぐとかえつて重要な
劇的な行動の様な気持になる。黙殺するに限
る。事実そう狽てる事柄でもない。
輝夫、美子の件も困りものです。輝夫は
一時的にせよ気が狂つている様だ。美子は無
反省に思い上つている。小生暇を見て美代吉
氏に會って話して見よう。口のうるさい小姑
がついていては英子さんも困るだらう。