お風邪のあとその後如何でいらつしやいますか
もうすつかり快くおなりのことゝ存じますが。
こちら廿日に陽子退院いたし、その日の
夜行で主人は神戸に発ちました
陽子はその後、毎日看護婦さんに来て
貰い、傷の手当をして貰つてゐます。傷と
いつても○この丸位の大きさだけ赤くなつてゐて
まだ皮膚が出来てゐないのです。家の中で
毎日祐ちやんと遊んだり本を讀んだり
絵をかいたりしてゐます。
手遲れになつたため、手術後、又化膿して
八度以上の熱が三日程つゞいて 心配したり
その後はかい虫のため、腹痛に悩まされたり、
私も子供を持つて初めての大心配をいたし
ました 其の後は經過よく、やつと歩けるよう
になつたばかりで少々早かつたのですが、
主人神戸行のため、丗日目に退院した
わけでした。
退院の日の前々日((十八日))から紘一郎が風邪気
で熱を出し、廿一日夜には九・五度になり、
②
驚いて済生館小児科医長さんに
来て頂きました その時はまだ風邪だといふ
ことでしたが廿三日になつて麻疹(はしか)と分り
ました
あわてゝ紘一郎を二階に移しましたが
もう陽子 祐二郎にも染(うつ)つてゐるだろう
との事で私の血を取つて二人に注射し
て頂きました 昨二十五日には下熱し
赤い疹もだんだん消えてきました
余病の出るのはこの時で大事だとの事
十分気をつけて居ります、
母がゐてくれるうちで 私も心強く
助りましたが 麻疹の潜ぷく期は十日位
だそうで 又これから二人がするのかと
思ふと、かつかりいたしますが、一回はやる
病気ですから まあしかたない事だと思います
主人は今日あたり上京でもしましたか
或はお母さまのところに寄られましたか、
とあれこれ想像して居ります
③
昨日、神戸の縣營住宅が出来上つたから
早速入居してくれとの通知の速達が
きましたが、留守中では何と返事してよいやら
分らず 帰りを待つて居ります。
主人も毎日の病院通いで疲れてゐるところ
又長途の旅行でさぞ大変のことでせう
と、案じてゐるところです。
子供達もお父ちやん いつ帰るの いつ
帰るのと、待つて居ります。
近いうちお母さまにぜひいらつしやつて頂いて
お荷物の片附けを始めなければならなく
なることでしよう、どうぞおねがいいたします、
私は引越の経験はなく どうしてよいのか全然
見当がつかず 本当に心配でございます
毎日看病や病院通いなど 何だか落付か
なくて、退院のおしらせもこんなに遅れて
しまいました。
二十六日晩 のぶよ
お母さまへ。
裏へ、
④
紘一郎の夜着が裏が((袖のついたかけぶとん))すつかりボロボロになつて
綿も背中のところがち切れて袷になつてしまい
一つ新しく縫つてやらなければならないのですが
表地に澪子お姉さまのかいまきをほどいた
縞の銘仙、(お母さまがこちらにいらつしやる時
何かと交替しようとしてといてあつたもの)
を、
それから裏地に緑色に染めた木綿裏地((黒つぽい緑、袖の糸だけうぐいす色))
を使つて縫つてよろしうございますか、
私も入院の時仕立なおした銘仙袷を着てゆき
一ヶ月間、夜晝着たまゝの生活をしましたので
すつかりボロボロにしてしまい、ふだん着るものに
ほんとに困つてしまいます、陽子の服もすつかりだめに
なり いよいよ私のコートでもとかねばならないかと
思います、病人はあり、慾ばつても手が廻りかねます、
只今、お母さまからのおはがき届きました、
旅行先からさつぱり葉書も来ないで何だか
心配ですが、お母さまのところにはたよりが
行つてゐるようですね、