四月一日 天氣 快晴 寒暖 暖

○哲学と云ふ言葉が段々明瞭になつて来る様に思へる。言語の

能く表す所に非ず。

○明餅(ママ)  をつくと云ふので、夕方父と妹と弟二人と僕五人で餅

草を少しつんだ。

○醇郎松本五二八と通知が来た。松本では大手を振つて入れ

るが、一髙の方はきはどい所である。第一班の方が出来たとは自身

言つてるが、大した事でもないだらう。昨年の理科の最低が五三〇

位(文科は五一六)位だから、境目である。應募者が五割増えた

のだから、点も上るだらうし、大した差はないだらうが採点も少

しはきびしいだらうとも考へられるから、駄目の方のパーセント

の方が多いらしい。折角、ここ迄漕ぎ付けたのだから、惜しい

所である。

 

四月二日 天氣 晴 寒暖 暖

 

四月三日 天氣 雨後曇 寒暖 冷

○長田秋穂君は合格しないだらうと窪田さんが知らせて呉れた。

○御柱が雨で休の為、木落しを見に行く予定であったが、行かない。

 

四月四日 天気 晴 寒暖 寒

○おばあさんだけを残して、皆で御柱を見に行く。木落し見物を

する。

 

四月五日 天氣 曇 寒暖 寒

○御柱祭見物に一人で行く。午前九時五十四分の汽車に危く飛乘つて、茅

野で下りる。追つて、「御柱祭を見るの記」を書く予定。歸りは午

後八時三十某分発。

 

四月六日 天氣 曇 寒暖 寒

○今日も又、父、母、姉、妹、弟(和郎)の六人で御柱見物に行く。午

前十時五十七分上諏訪駅発。歸りは、午後四時五十二分発。

 

四月七日 來信 考へ方研究社から百号記念懸賞問題を送つてよこした。

○竹内潔先生の所から、醇郎は七十点程不足だから十中八九駄目だと云

つて寄越した。七十点も差がある譯はないから、何かの誤だらう。然し兎に角

駄目は駄目らしい。

○今考へてゐる事は論理の範疇は總べてを支配する否や、即ちあ

らゆる事物例へば詩の如きも論理のカテゴリーに属するや否やと

云ふ事である。

 

四月八日 天氣 快晴 寒暖 暖 來信 父

○午後三時十五分本町一丁目星月*物店二階より発火し、附近十数軒を

焼き、四時二十分鎮火した。目抜の所の事とて、一時は中々混雑した。

星月商店の四才の子供が焼死した。

○片山毅先生の所から、醇郎駄目らしいと返信が来た。

○近頃二三日セキが出て気持が悪い。

 

四月九日 天氣 曇 寒暖 暖

○セキは昨日より良い。

○新聞の松髙合格者の名前の中に小

松醇郎あり。

 

四月十日 天氣 雨後晴 寒暖 寒 來信 一髙

○セキは昨日より良い様だ。

○二十一日から授業が始ると一髙から通信がある。

○松本に良い家が開いた。移るか移らないか今問題中。利は

経済的に良い其他、悪い事は百枝が女学校今一年で遷る事と湯に

別れる事。

 

四月十一日 天気 晴 寒暖 冷 發信 岩崎忠郎 石澤次夫

○大体に於いて、一家松本へ移住するに決した。

 

○四月十二日 天氣 曇 寒暖 冷

 

四月十三日 天氣 快晴 寒暖 暖

○明道館の保証人を古山京治郎氏に頼む。

 

四月十四日 天気 晴 寒暖 冷

 

四月十五日 天気 晴 寒暖 冷 發信 櫻沢鶴吉

○ひねもす、松本へ転宅するや否やと小田原評定をする。色々

の利害が非常に複雑に組み合さつてゐるので、到底人間の能力

を以てしてはどっちが良いかは結局は分らない。

 

四月十六日 天氣 快晴 寒暖 暖

○蚊が発生した。

○近頃、御柱見物に依る疲の痛手が漸う癒(イ)々えた。

 

四月十七日 天氣 晴 寒暖 暖

○哲学無き所不安あり。

○醇郎は遂に一髙が駄目であった。松本を振つて、もう一度一髙を受けやう

かどうしやうかと云ふ事が今問題になつてゐる。僕が松本へ入

つてゐるなら何も問題は起りはせぬ、喜んで松本へ入つてゐるのだが、幸か不幸か一

髙へ入つたが為に問題が起るのである。一人一髙で一人松本とは、何と云ふ運命

の仕業か。然も一髙へ入れるだらうと思つてゐたから、尚更運命の仕業

を疑ふ。柏葉にどんなに憧れてゐる事だらうか。試験の前の頃帽子へ

柏葉の徽章を付けてゐた事もあつた。此を思ふと、も一度一髙受験

をさせたい。然し、病気にならぬとも限らない。抑々の再受験の最大の

理由は松髙の独語の先生の悪い事ではある。然し、毉科へ入れぬ事も

ないだらうし、安全には違ない。今は安全であつても、大学へ入るに際して

一年遅れる様なら、此処で後れた方が良いと考へられる。今度一髙を

外れたのは、実力の不足には違ないだらう。然し、運命の仕業を恨む。が、之が人生。

 

四月十八日 天氣 雨 寒暖 晴

 

四月十九日 天気 晴 寒暖 暖

 

四月二十日 天氣 快晴 寒暖 暖

午前八時二十八分上諏訪駅発で上京。吉浄寺で途中下車して姉を訪ふ。砂

壁千丈。吉浄寺御茶の水間約五十分。市ヶ谷御茶の水間十分。

○教室は第二校舎、第三十番教室。僕の成績は三十番。

僕の組は一人落ちて、五人上から落ちて来て、四十四人。

 

四月二十一日 天氣 晴 寒暖 冷風

○三浦吉兵衛教授依願免本官。

○今朝目を覚して見たら、目まひがして気持が悪かつた。仕方なく学校

を休む。夕方迄には余程良くなつた。

 

四月二十二日 天氣 晴 寒暖 風冷 發信 小松正平

○今日は登校。午前八時半校庭に整列。九時より倫理講堂で入

学式。

 

四月二十三日 天氣 晴 寒暖 暖 來信 春秋社、姉

○新入生は今日入寮式。二、三年生は平常の通授業開始。

○ゲーテのファウストの譯左の如し。

森林太郎譯 フアウスト 冨山房發行

大村書店版 ゲーテ全集 第三巻 ファウスト 櫻井政隆譯

聚英閣版 ゲーテ全集第十三巻 ファウスト 秦豊吉譯

世界文豪代表作全集 第六巻第七巻 ファウスト 中島淸譯

岩波書店發行 茅野蕭々著 ファウスト物語

東新譯  新澤 フアウスト(第一部) 改訂版     岩波書店發行

註譯
註譯

東( 森田)新( 草平) 共著    ファウスト     文武堂發行

新渡戸稲造著  ファウスト物語     六盟館發行

学藝(世界)エッセンスシリーズ 12 ファウスト ゲーテ作 生田長江編  靑年學藝社發行

ゲーテ著高橋五郎譯 ファウスト     文榮閣藏版

 

四月二十四日 天氣 細雨半々 寒暖 冷 來信 母、小荷物

○通学願を出す。在学証明書を貰ふ。

○近頃は日記を書くのに気が向かない。又気の向いた時分に精しく

書く。週(ママ)期的に気が向いて来る。

 

四月二十五日 天氣 曇 寒暖 暖

本年度時間割

8―――9―――⒑―――⒒―――⒓―――2―――3

月 亀史四   心三   漢   岩獨  菅獨    英

火 中史三   〃   山經一     〃  岩獨   ペ獨

水 今國    英岩    獨       修     漢      ぺ獨

木 ぺ獨       〃     鮫體      今國    中史三      杉國

金 山體      亀史四      心      菅獨    岩獨      鮫體

土 富自     〃竹   〃       英

 

四月二十六日 天氣 怱雨怱晴 寒暖 寒 發信 千珊閣書院、アルス、岩波書店、早稲田大学出版部、改造社、櫻沢ツル吉、父

○北澤正氏の思想には偏見がある。

○近頃かう思ふ。髙等学校中、学校の事だけを勉強して、外の事に目を

呉れないのの方が良いのではないか。どうせ余計の本を讀んでも大した事

の出来やう筈がない。何方も不徹底に終る。実際、学校へ出てゐては

本なんかさう讀めたものではない。であるから、学校生活中は学校の事

に専心するのが良いのではないか。

 

四月二十七日 天氣 晴 寒暖 寒 來信 研究社月報 発信母、姉

 

四月二十八日 天氣 晴 寒暖 温

○獨逸語の單語の性は、女性は直ぐ覚えられるが、男性と中性と

は中々覚えられない。混同し易い。

○歴史の先生は總べては歴史と云ひ得ると云つた。経済の先生は總べては

経済上の問題となり得ると云つた。僕に云はせれば總べては哲学だ。

今井博人に云はせれば總べては藝術だと云ふだらう。

○通学願不許可(二十四日提出の分)。再提出。

○片山毅氏に弟の厄介になつた礼を云ふ。

 

四月二十九日 天氣 雨 寒暖 寒 來信 アルス、早大、千珊閣書店

 

四月三十日 天氣 快晴 寒暖 暖 來信 早大

○通學願許可。

○近頃は独逸語の予習後習で忙しい。今日等は三時間みつちり

登張の独和大字典を引き続けた。岩元先生の方はHngideo

がすんだ。