七月一日 天氣 曇晴雨(夕立)後晴 寒暖 冷 來信 醇郎 發信 父
○寮生消費調査結果発表。一人平均(五月分)三四円三六銭。然し資料
が正確でない。
○岩波哲学叢書の版数。現今の処。
一. 速見滉 論理學 一四三
二. 宮本和吉 哲學概論 八〇
三. 高橋讓 心理學 七六
四. 紀平正美 認識論 六六
五. 阿部次郎 倫理學の根本問題 六二
六. 阿部次郎 美學 五三
七. 田邊元 最近の自然科學 三六
八. 阿部能成 西洋古代中世哲學史 三一
九. 阿部能成 西洋近世哲學史 三一
十. 高橋里美 現代の哲學 二七
十一.上野直昭 精神科學の根本問題 一四
十二.石原謙 宗教哲學 品切
七月二日 天氣 曇後雨 寒暖 暖
○國文法普通。菅相当以下。
七月三日 天氣 晴 寒暖 暖 發信 弟
○自然科学。物理可、化学不可。尤も化学は一般に不出来。
○漢文は教科書と有明堂の漢文叢書とを対照して調べると一時間
約教科書十頁。
七月四日 天氣 雨 寒暖 暖 來信 父(書留) 發信 姉
○ノートヲヨムノハ二十枚一時間半。少シグズくシテルト二時間カカル。
七月五日 天氣 曇風 寒暖 冷
○心理可。漢文中。
○亀井氏ノ西洋史ノノート二十枚、昨日ハ三時間半、今日ハ三時間弱カ
カツタ。昨日ノノハ心理ダカラスイテテ早カツタガ、今日ノハコンデルカラ
オソイ。
○試験ニモイササカ疲レタ。
七月六日 天氣 曇 寒暖 暖 來信 醇郎
○西洋史も経済も不可。
七月七日 天氣 曇 寒暖 暖 來信 聚芳閣
○岩本禎氏。開巻最初の文章十一行を出す。
七月八日 天氣 晴 寒暖 暖
武藏高等学校に到り父の用件を済す。
午後銀ブラ。折しも慶應の試験が終つたので、町は慶應
の奴で溢れてゐる。
午後十時東京の灯にしばしの別れを告げて、歸郷
の途に上る。
七月九日 天氣 晴 寒暖 暖 來信 大正十六年度受験年鑑(考へ方社) 考へ方通信(二部) 考へ方研究社 上諏訪の家に来てゐる 發信 明道館
朝六時上諏訪に著く。午前九時から午後三時迄晝寢。
七月十日 天氣 晴 寒暖 暖
七月十一日 天氣 晴 寒暖 暑 來信 明道館 發信 小口幸夫
七月十二日 天氣 曇 寒暖 冷 發信 父(新聞)
七月十三日 天氣 曇 寒暖 暖 來信 小口幸夫 太田和彦 父
○姉が今朝歸つた。
七月十四日 天氣 晴 寒暖 暑 來信 小口幸夫(着物) 發信 小口幸夫 父(二回.新聞)
七月十五日 天氣 晴 寒暖 暑 發信 父(新聞)
○新聞に因ればどこかで九十七度ださうだ。干する事甚し。
七月十六日 天氣 夕立 寒暖 暑
七月十七日 天氣 晴 寒暖 暑
七月十八日 天氣 曇 寒暖 暖
○今日少しは冷しい。昨今は九十度を過ぎるさうな。
○午前久保隆君の家へ行く。母の見舞の反礼の床上祝を持つて行つ
たのだ。歸りに砂糖を持たされて困つた。
○ゲーテのヴィルフルム、マイスター修業時代を抄本で讀み了す。十一日
より十八日迄八日間欠かさずよんだ。百二十頁だから、一日丁度十五
頁の割。テキストは郁文堂の抄本であるが、小口幸夫君が(文甲)
二年の時使つて書き込みのある奴であるので、一時間五頁位進める。
相当樂である。
七月十九日 天氣 雨 寒暖 冷
七月二十日 天氣 曇 寒暖 冷
○今日からゲーテの伊太利紀行を南江堂の抄本で讀み
出す。
○希臘の神話はイリアッドその他の大藝術品を産んだ。希伯来
の神話は人類の矜りたる舊約聖書を産んだ。さうして我々の
神話は古事記を産んだ。
我々はこれらの製作の概念的分析或は解釋を侮蔑する。
我々はたヾその内に生命を見る。大きい生命と小さい生命とを。
さうして我々の神話を正直に評價する。それは確かに萬國の
精華ではない。 ―和辻哲郎
七月二十一日 天氣 晴 寒暖 暑 來信 小口幸夫
○滑稽ニ二種アリ、一ツハ發表者が其ノ滑稽ナル事ヲ自覚セザル場合ニ
シテ、他ハ発表者ガ其事滑稽ナルノヲ自覚セル場合ナリ。然シテ
兩者共滑稽ノ効果ヲ有ス。價値二上下ナシ。
○伊太利紀行ハゔいるへるむ、まいすてるヨリハ難シイ。一時間三頁位
也。
七月二十二日 天氣 晴後曇 寒暖 暑 來信 山岡克己
○下位春吉氏の講演「伊太利の國情を説いて日本に及ぶ」を聞く。
面白し。 黒シヤツ團の綱要。
一.我等ノ生命ハ祖國本分規律
二.我等ハ義務アツテ権利ナシ但シ自己ノ義務ヲナサン事ヲ主
張スルノ権利ヲ有ス
三.我等ハ実行アツテ議論ナシ
七月二十三日 天氣 曇小雨 寒暖 暖
○宗教ト形式トノ問題。内ナル心ノミヲ説キ、形式ヲ軽ンズルハ不可。
形式ヨリ宗教二入リウトナシ、内ナル心ヲ従トスルモ勿論不可。形式ハ従ナリ、
宗教心ハ主ナリ。心ナキ形式ハ意味ヲ持タズ。内ナル心抱ク時、
其ヲ表出スルガ為ノ最適当ナル形式ニシテ始メテ意義ヲ有ス。形式
ハ内ナル心ノ表現以外二意味ナシ。
○死際の一日も、今日の一日も、變りはない。嗚呼勿體ない。
―――大倉邦彦。
○父、母、醇郎、百枝四名澁の湯へ行く。後は姉と和郎と三人。
七月二十四日 天氣 曇 寒暖 冷
七月二十五日 天氣 曇 寒暖 暖 發信 山岡克己 新潮社
七月二十六日 天氣 曇小雨 寒暖 暖 來信 父
○渋の湯連中歸る。父は三の坂を上つた所で時計を落したと云ふ。
残念がる。
七月二十七日 天氣 曇小雨 寒暖 冷 來信 寺嶋和夫
○明道館が湯島へ移る事に決定したと寺嶋氏から通知がある。湯島
ならトロだ。
○人が自分の有する誇りうる物を自慢した時、其は己に
其の價値を失ふ。
七月二十八日 天氣 曇 寒暖 暖
七月二十九日 天氣 曇小雨 寒暖 暖
○父ト山浦ヘ行カントシテ午後三時五十五分ノ汽車二乘リ遅レ
ル。四時々々ト思ツテ居タカラデアル。丁度五十五分二駅へツイタ。
ソコデ父トツリニ行ク。中学へ入ツテカラ殆行カナカツタカラ数年振リダ。一匹モツレナイ。父ハ一匹。
歸リニ雨二逢フ。
七月三十日 天氣 曇 寒暖 冷
○午前八時二十八分上諏訪発で山浦の家へ行く。
七月三十一日 天氣 晴 寒暖 暑
○午前五時歸床。午前六時出発。同行三人。父、僕、醇郎。例の
父の時計を落した処で探す。無い。僕だけ澁の湯に入り、後二人は
歸る。午後一時頃湯につく。同室計僕も入れて三人。入
浴二回。