三月一日 天氣 快晴 寒暖 暖 發信 有明堂 姉

風暖い。

新潮社の世界文学全集の〆切日。辻々に立つて

ビラやパンフレットを撒く、中々の騒ぎである。

東洋史。皆の山が当つて、支那の記念日が出る。教室

に歓声が起る。

経済。「社會ノ実生活ト経済トノ関係ヲ略説セヨ」

「何故ニ分配問題が尊重サレルニ至リシカ」

点を呉れる問題である。

試験も殆終へたと云ふものである。先づ落第は免れた

と思ふ。

 

三月二日 天氣 晴 寒暖 暖 受信 丸善株式會社 岩波書店

ペツ。例の如く和文独譯。例の如く、違ふ。

自然科学。注意点ではないだらう。

今朝も三時迄聞いた。それで、今日は最後ではあるしす

るから、学校からかへつてから夕飯迄假睡を取り。それから、徹

夜する位の積りでおきてゐる。心理で滿点を取る為に。

月曜あたりから、何となく原因不明で気持が悪かつ

たが、昨夜から今朝にかけて三回サントテネ散をのんだら

よくなつた様である。でも注意せんといかん。

 

三月三日 天氣 曇 寒暖 寒 受信 有明堂

軍教出來ない。

心理はパリ。

昨夜は四時迄聞く。

小林が來る、泊つて行く。

今井が來る。

余は余の最善をなした。此で失敗したら止むを得な

い。運命に従順に従ふあるのみである。

 

三月四日 天氣 曇後雪 寒暖 寒

午前「哲学以前」をよむ。

午後、丸善本店へ行き、神田へ廻り、城戸氏の「心理学の

問題」を岩波で買つて來る。

晩、竹内潔先生の処へ行く。居ない。

 

三月五日 天氣 曇 寒暖 寒 發信 野沢由己 小松和郎

矢島羊吉氏を訪ひ、一泊す。

 

三月六日 天氣 快晴 寒暖 暖

三時頃今井の処へ行く。

 

三月七日 天氣 快晴 寒暖 溫 受信 岩崎忠郎 学友會誌二十六号来てゐる。

昨夜十一時半飯田町驛發。四十分前に明道館を

出たのに、約五分前に漸く乘車した。御茶之水で待つ

た為である。世界徒歩旅行著横山利一氏と一緒

になる。

諏訪中学校カンニング問題先日以來起る。

 

三月八日 天氣 曇 寒暖 寒 發信 岩崎忠郎

西田幾多郎著「意識の問題」。昨日讀んだ

時よりは、ずっと分る。然し、未だ西田哲学の香を嗅ぐに

過ぎない。

中澤壽三郎君早崎靜一君宮澤駿君を弟が

連れて來る。下社参拝の為、下車したのである。

今日本で生きてゐる人でえらい人と云ふと、だうしても西田

幾多郎氏と紀平正美氏との二人である。

近來無精に漢文が好きになつた。

近來、政治家や軍人等のえらい人に感心しなくな

つた。哲学者や宗教家のえらい人でなくては、ほんとに

崇拝する気になれなくなつた。

 

三月九日 天氣 雨 寒暖 暖 受信 野澤由己

西田幾太郎著「藝術と道徳」。兎に角、西田さんの此の

境地に至れば大したものだ。

 

三月十日 天氣 晴 寒暖 暖

平凡。

近來讀書。

近來の収穫はアプリオリと云ふ事が分つた事だ。

 

三月十一日 天氣 晴、荒れ 寒暖 寒 發信 今井博人

人間を具體的人間として見れば、即人間その物として

見れば價値に差別はない。人間を抽象的に見ると差

別が生ずる。能力と云ふ点から見るとか、人類と云ふ点か

ら見るとか、其他見る方で或標準を作つて見る、即抽象

的に見る時初めて差違が生ずるのである。

吾人の知識の根柢には信仰がある。信仰がなければ知

識は解体して了ふ。信仰によつて知識が成立つのであ

る。論證を進めて行つて、だうしても論證に及ばない所へ行

つたら信ずるより外はない。根本になると信仰になる。し

かし余は見方を変へて見たい。即、總べては信仰である。我々

の知識はすべて信仰から成立つ。論證は信仰の中の特別な

ものである。論證と云ふ信仰である、論證そのものの成立を疑

つたら論證も成り立たない。論證も形を代へた信仰である。

信仰が本で論證は末である。論證を唯一の據り所としてゐ

るものは、自分の信仰の中にあるのを知らないのである。

欄外注記

河西、石河二教諭校長の手元に迄辞表呈出。五年生が馬鹿なのだ。

 

三月十二日 天氣 晴 寒暖 溫

諏訪中学校問題。新聞ニヨルニ、生徒ノ方ニモ相当

ノ理由ガアルラシイ。

 

三月十三日 天氣 雪 寒暖 寒 發信 矢島羊吉

今年は誕生日を忘れた。珍しい事である。

積雪七・八寸に及ぶ。

「文は人なり」、樗牛もえらいには違ないだらうが、樗牛と

余とは要素が違ふ。

社會は吾人を要求す。夫の就職難の如き問題

に非ず。運命は吾人に職を与ふ。働かん

か報酬は必然此に伴ふ。

 

三月十四日 天氣 晴 寒暖 暖

新聞ハ上諏訪駅積雪一尺五寸ト報ズ。少シハ誇張ハ

アルダラウガ兎ニ角大雪デアツタ。

ヨク雪ガトケル。

在郷一週間、同ジ様ナ生活ノ為ニ意気衰ヘル、轉巻(ママ)ヲ要

スル、何トカシテ。

飲酒・喫煙ハ生理的ノ害ナリ。内ナル心意ノ問題トシ

テ初メテ道徳的ノ惡トナルナリ。飲酒・喫煙其ノ物トシテ

ハ一般ニ生理的ノ害ニシテ、道徳的ノ惡ニハアラズ。生理的ノ害ト

道徳的ノ惡ト混同セザルヲ要ス。

 

三月十五日 天氣 雨後雪後曇 寒暖 寒

今日モ通知來ラズ。父ヨリ醇郎ニ手紙來リ、醇郎本年度

とっぷトノ事、及落ヲ心配スル余トハ大シタ違ナリ。

 

三月十六日 天氣 快晴 寒暖 冷

久し振りで良い天気。然し未だ風が寒い。

 

三月十七日 天氣 晴 寒暖 溫

朝寒し。

午前、「行の哲学」前半を讀む。

午後、醇郎を率て、豊田村へ行く。中澤壽三郎

君不在、金子守君不在、山田坂仁君不在。三時間の散

歩に終る。併し、初めは快晴で、暖く、良かつた。

早くねる。

 

三月十八日 天氣 快晴 寒暖 暖

六時起出で、湖畔に逍遙す。天氣晴朗、神氣

快適。

暖し。のきばの雪殆消ゆ。

昨日より六日間、高等学校入学試験。既に二年前。

姉の問題迫る。

醇郎右胸部弱し。伴國手の診断。昨日の強行軍がたたる。

百枝、女子校の最後の授業。

 

三月十九日 天氣 曇後雨 寒暖 溫 發信 竹内潔

姉の家との書信往来繁し。

髙等学校入学試験問題

(第一班)歴史(西洋史) 十七日

(一)ギリシヤ文明とローマ文明とを比較せよ。

(二)アメリカ合衆國獨立の顛末を記せ。

(第二班)         十八日

一.ユスチニアヌス(Justinianus)帝の事蹟を述べよ

二.名譽革命(Glorious Revolution)の顛末を記せ

 

三月二十日 天氣 雪 寒暖 寒

朝起きて見たら、積雪三・四寸、あきれる(、、、、)ばかり。終日

降雪。

近來、毎晩明瞭な夢を見る。昨夜は歯の六本ぬけた

夢を見た。歯の組合せの感覚から誘発されるので

あらう。

醇郎、良くない。伴さんに検便して貰ふ。何もない。

胃らしい。

「行の哲学」、本年はもうよまない、又来年よむ事とする。

兎に角、大哲学である。

 

三月二十一日 天氣 快晴 寒暖 溫 發信 父

姉ヨリ電報來リ、諏訪ヘ來ルトノコト也。

醇郎ヨクナク、伴毉師来診。

父ヨリノ報告ニヨルニ、窪田隆君東大医科合格ト

ノ事。近日、御目出タウト云ヒニ行ク事。

長坂端午君ニ逢フ。二、三日前ニ來タ、法科ノ入

試ノ発表アリ、及第會議ハ二十五日発表ハ二十八日頃

トノ事ナリ。報告ナキ訳ナリ。サレド、今度來レバ

確実ノ報告ナリ。

 

三月二十二日 天氣 快晴 寒暖 暖 發信 父 久保田隆

塩沢ノ野沢竹人氏ノ家ヘ、母ノ代リデ、行ク。八

時三十三分上諏訪駅発、茅野デ下リ、粟沢橋迄自動車

デ行ク、九時。十時半、竹人氏ノ家ヲ探シ突テル。天気

快朗。道ハ惡イ。一時半迄居ル。用ヲ済マス、竹人ノ婚

禮ニ付イテデアル。一時半カラ歩キシ出シテ、駅ヘ着イタノガ

四時十五分前。歸リノ方ガ、ズット路ガ良イ。行キハ何処カ

ノ小僧ト一緒ニナリ、歸リニハ木村佐吉君ト一緒ニナル。

歸リニハ長田俊子サンノ家デ立チ話ヲスル。道ノリハ二里。

今日ハムシロ暑イ。

 

三月二十三日 天氣 晴 寒暖 暖

十一時起床。昨夜三時迄聞いたのだ。寝て考へる癖が

ついて困る。運動やねぎ等は睡眠に大した効がない。一寸

興奮するともうねむれない。が、心配事等で食がつかへる

と云ふ様な事はない。

 

三月二十四日 天氣 晴 寒暖 溫 發信 小口幸夫

午後、久保田隆君を訪ふ。

 

三月二十五日 天氣 曇後雨 寒暖 暖

午前、杉本が來る。

太田は英文科を落つたさうだ。少しは懸念はし

たが、先づ大丈夫だと思つたが、矢張り駄目であつた

のだ。彼は最可愛さうだ。

春雨。

杉本、太田何れも諏訪中學の最優等であるのに、

変な世の中になつた。

 

三月二十六日 天氣 雨 寒暖 暖 發信 明道館(太田和彦) 受信 竹内潔

竹内潔から手紙が來る。無事及第。これで完全

に三年になったわけだ。兎に角、一段落。以後大した難関

はない。来年の計畫は哲学はだうせ三十点位の所。西洋

史は何としても注意点を取らない様にする。独逸語は出

來たら注意点でなく、せめて五拾点以上を取る事とし、

その外は注意点を取らない事にする。そして、無事卒業

する。大学へはボロク入る。

 

三月二十七日 天氣 晴 寒暖 寒

晩、泉町公開堂に於いて中学に於ける上諏訪の者

の同級會。會する者十二名。心憶えの為書き付く。

余。長坂端午。土橋彦衛。矢島嘉淸。牛山正美。

小口治男。今井俊。矢島盛重。岩本健兒。中村勝

忠。村上誠。河西英助。

 

三月二十八日 天氣 快晴 寒暖 暖 受信 太田和彦

快晴。日本晴。溫度快適。無風。

公園に逍遙す。

昨夜は四時と七時とを聞いたから、三時間はねないわけ。朝早

く姉が着く。諏訪髙女に勤める事となった。

在郷三週目。倦怠を覚える。休の長いのも良し悪し

である。只ブラくしてゐる事になる。期間は永くとも同じ様な

生活の繰り返しだから、内容的には短いのと同じである。

此次からは永い休は何とか工夫を考へやう。或は停京し

ても居やう。休の日の去るのの惜しい様な生活をしたい。

 

三月二十九日 天氣 晴 寒暖 暖

昨夜一時過ぎにねむつて、今朝起きたら午後一時であつた。

 

三月三十日 天氣 曇小雨 寒暖 暖

長坂の処で立話をする。親父さんが腎臓で一週間と

持たないさうだ。沈んでゐた。

 

三月三十一日 天氣 快晴 寒暖 暖

大いに暖し。

四月一日鶴明館で野沢竹人の馬鹿野郎の

婚礼の式がある。家が仲人ださうだ。

忙しさうである。

我が仕事は創作なり。創作家に二種あり。

詩人及哲学者也。一は表象の創作家にして、他

は概念の夫なり。然り而して予は哲学者たるに在

り。哲学者の仕事は自己の探究なり。