四月一日 天氣 晴 寒暖 暖

朝、健兒サの処へ行く。留守。ズーット散歩してかへる。

醇郎と赤十字病院へ行つて、醇郎髙波院長に見て

貰ふ。別に異状ない。

午後、松本二中の生徒五名來る。諏訪中学生三人と

弟と余と都合十人でボートを出し、二時間程漕ぎ廻

る。

昨夜四時間位きりねむらなかつた上に、運動したので

つかれる。

 

四月二日 天氣 晴 寒暖 暖 受信 今井博人 河西健兒

昨今、暖かすぎる。

 

四月三日 天氣 晴、風 寒暖 暖

午前家中で三村で写眞を取る。

夜、河西健兒先生の処へ行く。

 

四月四日 天氣 曇後雨 寒暖 暖

姉の代りに上京の事となつた。

 

四月五日 天氣 曇小雨 寒暖 寒 發信 姉

朝起きて見たら、餅の様な雪がボタリくと降ってゐた。

間もなく雨となる。

午前十時五十二分上諏訪駅発上京。平島嘉門君

樋口眞君と同車。明道館へ泊る。

 

四月六日 天氣 雨 寒暖 寒 發信 河西健兒 受信 第一髙等学校

東京女子大学寄宿舎へ行き、岡田ます子さん、石内さん

に手傳つて貰つて、午前中に姉の荷造りをして了ふ。安

井先生にも逢ふ。

それから学校へ行く。成績発表を見る。僕の組は四十四

人あつた中、一人は死に、一人は休学、三人落第で後は三十九名。

僕は三十四番。もっとよい積りであつたが、皆も勉強したと見える。

後、神田へ行く。

 

四月七日 天氣 雨 寒暖 寒

エヴリマンでバークレイを買ふ。

太田行藏氏方へ泊る。

丸善三越で頼まれたものを買ひ、囗分寺に百枝を

迎へ、学校へ連れて行つて、寄宿へ入れる。三越は復興

開店記念第一日。世界風俗展覧會がある。みる。

 

四月八日 天氣 晴 寒暖 暖 發信 小平寬司(電報) 々 醇郎 受信 國際書房 学生聯合礼拝事務所

朝、太田の家から今井の処へ行く。國民新聞に一髙以外

の全部の髙校合格者氏名が出てゐる。諏訪は可成り

良い様である。昨夜一齊に発表されたのである。一髙は

今日午頃との事。

午後百枝の処へ行く。午前中は体格検査の訳。西

島先生に御逢ひして、百枝の事を頼む。

それから、学校へ行つて発表を見る。小平寬司、五味

知英、北原春雄、小椋恒夫、小山貞夫の五人入つてゐ

る。

 

四月九日 天氣 晴 寒暖 暖

寒からず、暑からず実に良い日。

昨夜は明道館に泊る。朝上野の櫻を見る。九分通り。

それから百枝の処へ行く。散歩に行つて居て居ない。一時頃

歸つて來る。教科書を買ふ。三越(新宿)へ行つて、雨傘

を買ふ。

囗語専攻科のコース。

囗語。伊勢物語、土佐日記、十六夜日記、古今新古今、增

鏡、平家物語。  文法(山田孝雄著)。

漢文。唐詩選、日本外史、孟子。

英語。バイオグラフィカル、ストーリーズ。

アン、アティツク、フィロソファー、イン、パリス。

プリンスの文法。

パーマーのシインキング、イン、イングリッシュの會話。

夜矢島の処へ遊びに行き、飯田町十時発に新宿でのつて、かへる。

 

四月十日 天氣 晴 寒暖 暖 發信 妹(書留)

此度の上京の費用計參拾五圓八錢也なり。

母のお伴で鋳物師屋の家へ祖母様の三周年の法事

に行く。午前はねてゐて、午後行く。途中小平寬司

氏の家に寄つたが不在。

 

四月十一日 天氣 曇 寒暖 寒 發信 百枝

十時半小平寬司に起こされる。

夕方五味智英が來て、色々話をして歸る。

先日の写眞出來て來る。

 

四月十二日 天氣 快晴 寒暖 暖

母より笹岡美代吉氏に余の机の製造を頼んで貰

ふ。

余の藏書の本部を当分の中

東京市本郷區湯島切通坂町十六明道館

に置く。

 

四月十三日 天氣 晴 寒暖 暖

Introduction to Philosophy by Oswald Külpe

正ニ讀了。

約一年掛リ。トハ云フモノノ約二百頁ハ此休ニヨンダノデアツテ、約

五十頁ガ以前ニヨンダノデアル。彼きゅるぺハ篤学者肌

ノ人デアツテ、洞察力ノ鋭イト云フ様ナ処ハナイ。多クノ説ヲ

集メテ分類シタダケデアル。ゔいんでるばんとノニ比スルニ、ゔ氏ノハ

考ヘ方ヲ集メ、きゅ氏ノハ考ヘラレタ結果ヲ集メタモノデアル。哲

学ヲカヤウニ扱フノハダウカト思ハレル。

 

四月十四日 天氣 曇後雨 寒暖 暖 發信 百枝 々(書)

 

四月十五日 天氣 雨 寒暖 冷

 

四月十六日 天氣 晴 寒暖 溫 發信 丸善

丸善へPogero:a Students、History of Philosophy.

注文の葉書を出す。

 

四月十七日 天氣 快晴 寒暖 暖 發信 百枝

長坂端午君を訪ふ、不在。君の父君が先刻腎臓病

でなくなられたので、おくやみに行つたのだ。母君にあいさつしてかへる。

 

四月十八日 天氣 晴 寒暖 暖

午前十時五十分上諏訪駅発で信越線廻り御徒所

行で松本へ行く。

午後古本探しをかねて、町を歩く。松髙へ訴えに

入つた人々に逢ふ。

晩父と醇郎と三人で中村館に髙波治君、藤森

正雄君を問ふ。

 

四月十九日 天氣 晴 寒暖 暖

朝、美彌壽衞吉氏の家へ行く。

博覧會を見る。

夜、髙山館に山田坂仁氏を問ふ。

 

四月二十日 天氣 曇 寒暖 暖 受信 藤森正雄 囗際書房 丸善株式會社 右弟ニ來ル、 チッキ來テヰル

午前七時十二分松本駅発で父と共に長野に向ふ。長野

で善光寺参りをする。後、十一時五十分発で長野駅を出 独り

上京。

 

四月二十一日 天氣 小雨 寒暖 暖 発信 姉 々(書籍) 妹

五段の書架を八円五十戔で買ふ。大正四年よりの

郵便貯金は哲学辞典と書架となつて消える。

今日は何もない。只席について、出欠を取るだけ。

此間頼んだRogers、Students、History of

Philosophy を丸善で持つて來る。

夜、神田へ本を買ひに行く。

 

四月二十二日 天氣 曇 寒暖 寒 受信 小荷物(家)

入学式。九時ヨリ。八時半迄ニ來イトアルガ、九時迄デ

結構。

 

四月二十三日 天氣 半曇 寒暖 冷 発信 姉 々(書籍) 藤森正雄

昨夜モロに寒い。

小口君、佐藤君と上野カフエー菊里にのむ。

六時一寸過ぎ起床。今年は宗旨をかへて、早起きを

する事とする。

 

四月二十四日 天氣 快晴 寒暖 暖 発信 百枝 受信 百枝(二ツ)

朝明道カンを出、神田・本郷に書を求め、百枝の

処へ持つてゐる。西荻窪駅に百枝と笠原幸子さん

とに逢ふ。保仲君の囗学院へ入つた事、幸子さん

の臨教受験の為上京した事とをきいた。かへりに見て

來ると、地理・歴史科九五番入つてゐた。幸子さんであ

る。

今は七時少し前、明道館三名ゐるのみ。

明日から又学校がある。

朝、小林君が五味智英君を連れて來たさうだ。

留守をしてゐて気の毒であつた。

館内寂として声なし、人ありや否やを知らず。カーライルの英雄

崇拝論(英語)を讀む。世間にては何事が行はるるやは知ら

ねど号外賣りの方かまびすし。電車の響又や多き。

 

四月二十五日 天氣 晴 寒暖 暖 受信 無産者

月曜ノ体操ハ軍教、三大。

未だほんとに暖くはない。

 

四月二十六日 天氣 晴 寒暖 暖 受信 丸善株式會社

愈々、本当に暖くなつた。

須藤さん推薦の論理学の参考書。

紀平正美著 論理学綱要.今福忍著 論理学.

速見滉.論理学. 中桐確太郎 論理学綱.

Jevono  今はすたれた。

Creighton ,An Introductory Logic. 内容が少し足らん。

Welton

Joseph       Coffey. The Science of Logic.

Mellone                         三書の寄せ集め.

Göschen Elseuhaus,Psychologie u.Logic. 実に要領が良い。

Drobisch.大名著.

DrobischとCoffeyで形式論理学は盡きる。

Sigwast

Wundt

Keynes,Formal Logic. 形式論理学、總ベテヲ含ム.

 

四月二十七日 天氣 快晴 寒暖 暖 発信 丸善株式會社 小松澪子

昨夜、雷光し、雨降る。

明道館欠損八十円也。だうしても分らん。十人で

分據の事。布留さん山岡さんの委員終了、寺嶋さん河角

さんとなる。

代返のして貰ひ始(ぞ)め、アイスクリームの食ひぞめ。

四月二十八日 天氣 花雲 寒暖 暑

小林が遊びに來る。

髙木堯夫君が明道館へ來る。此度入る事になつた

から宜しくと云ふ。明日の中に引越して來る、と。

 

四月二十九日 天氣 晴 寒暖 暑

晩、矢島羊吉君の処へ、本をかへしに行く。不在。

本をおいて來る。

晩、部屋割きまる。僕は二階東より二番

目で河角さんと同室。今迄は二階東端で

小口さんと同室。

 

四月三十日 天氣 晴 寒暖 暖 発信 百枝

名取さん佐藤さん組から部屋割に故障を

生じ一部分変更。小生は二階東より三番目、佐

藤さんと同室。

晩、小口さん佐藤さん、今井博人君と外一人計

五人で浅草松竹座へ行く。ゴオルキイ「夜の宿」。

かへりに上野でビールをのむ。