五月一日 天氣 晴 寒暖 暖 受信 藤森正雄

新村義廣君、高木堯夫君入館。

 

五月二日 天氣 曇 寒暖 冷 発信 山田苗松

正午、明道館へ姉が來ル。

近來専ラカント研究。(少シ大キイガ)

髙橋教授ノ倫理学ノ講義第一時。

 

五月三日 天氣 雨 寒暖 冷 発信 丸善(二箇) 受信 丸善

久し振りの雨、又可ならずや。

近來讀書のモーション進まず、何故なりや。知らず。只、気が

向かざるのみ。但し本の好きな事は依然。

本年度は睡眠状態可。平均十一時少し過ぎ就睡、

六時半頃起床。

朝の中に学校の事はすむ。

 

五月四日 天氣 晴 寒暖 暖 受信 戸山教會

通学願を出す。

近來讀書が進まないのであるが、今日ふと新村義廣氏

から西田博士の「現代に於ける理想主義の哲学」を

無断借借(ママ)して讀み出したら、面白くて、三五四頁を一回で

一気に讀みほして了つた。

 

五月五日 天氣 晴後曇 寒暖 暖 受信 無産社

井上さん、小沢さん來る。

惡を惡と知れば已に惡に非ず。

 

五月六日 天氣 晴 寒暖 暖

午後六時より、切通江智勝で小沢泉氏の送別

會。館員十名。櫻沢さん。先輩三名。山見さん。山

岡さん。計十七名。途中で新井さん來る。其の頃夕

立がある。

 

五月七日 天氣 晴 寒暖 暖 受信 父(思想) 國際書房

午後、丁酉倫理公開講演會に出る。

生活原理としての創造  稲毛詛凡氏

囗内の異邦人      桑木義寛氏

あまり面白くない。夕立と矢島に逢ふ。雹yが降る。

夕飯後矢島羊吉氏の家へ行く。泊る。

 

五月八日 天氣 晴 寒暖 暖 受信 姉 丸善

良い日曜。暑からず、寒からず。天気落ち付いたとの

事。昨日午後及今日午前大学の学部開放。

晝近く、矢島と大学の中をうろつく。晝過ぎ伊藤

三平氏宅へ行く。其足で竹内先生を訪問する。

 

五月九日 天氣 晴 寒暖 溫

明道館式憂鬱、昨年にもます。館員に錄な

ものがゐない。象牙の塔にこもるより外なし。

 

五月十日 天氣 曇後晴 寒暖 暖 発信 父 丸善 受信 父

 

五月十一日 天氣 晴 寒暖 暖 受信 東京市内外学生大聯合禮拝委員會

午後「西洋中世の文化」と「概觀世界思潮」とを買つて、東京女子大

学へ行く。三時少し過ぎ。姉もその中に來る。妹と三人で新宿

へ行く。駅階上精養軒で夕食を了す。百枝は学校へかへり、

僕は姉について、阿佐ヶ谷の松原巌先生の処へ行く。かへ

る。姉は目白へ、僕は明道館へ。姉は一昨日と昨日試

験であつた。以上の如し。

 

五月十二日 天氣 晴 寒暖 寒 発信 姉 父(書留) 受信 姉

近來、変な気候である。毎晩と云ふ位雨が降る。晝は

晴れてゐる。溫度も夜は低い。今朝なんかもろに

寒かつた。

近來、表象ノ世界ニ興味ヲ失ツタ。余ノ信心アルハ いでや

ノ世界、概念ノ世界、人格ノ王口デアル。

 

五月十三日 天氣 曇 寒暖 寒

 

 

 

3 岩元 池田     鮫島はられる。

2 独              体 体

2 鮫島 菅    齋藤  菅  片山

1 体   独        独  英

岩元     岩元 今井 島田 片山

12

 

論    独   國   漢   英

11

 

今井 齋藤       ペツオールト 岩元 岩元

11

 

國       〃   独   独   独

10

 

髙橋 片山  ペツオールト      須藤 岩元

10

 

9     英    独  〃

9 島田 ペツオールト 岩元 吾莊子 齋藤 齋藤

本年度の時間割

8 漢  独     法  史  史

月  火  水  木  金  土

 

五月十四日 天氣 雨 寒暖 暖

第三回東京市内外學生大聯合禮拝に出席す。二時に

始まり四時半に終へる。市電で靑山會館迄約一時間掛る。

 

五月十五日 天氣 晴後雨後晴 寒暖 暖

晩小林が遊びに來る。

だうも僕はあせつていけない。本を讀むのに、あせる気味

があつて、困る。早く讀まないと、何だか讀み切れない中に

何とかなつて了ふ様な気がする。

 

學生大聯合禮拝順序

回三第

(昭和二年五月十四日午后二時於靑山會館)

司會者  本間  誠氏

奏樂                 草川宣雄氏

頌詠 第四百六十番(起立)      會衆一同

祈禱 (起立のまヽ)         司會者

讃美歌 第三十五番(起立のまヽ)    會衆一同

聖書朗讀 ロマ書第八章十八節以下     加藤七郎氏

祈禱                 淸水二郎氏

賛美歌 第二百二十五番(女聲四部合唱) 自由學園生徒

聯合禮拝趣旨                 山本茂男氏

賛美歌 第三百七十三番(起立)     會衆一同

説教 「基督教世界觀」        高倉德太郎氏

祈禱                 高倉德太郎氏

獨唱 賛美歌第二百五十八番      外山國彦氏

献金

報告                 司會者

頌詠 第四百六十二番(起立)     會衆一同

祈禱(起立のまヽ)          高倉德太郎氏

閉會

(これは日記に折り込まれていた式次第)

 

五月十六日 天氣 快晴 寒暖 暖 発信 丸善 受信 丸善

近來、漸う勉強の仕方が分つて來た。今迄は只系

統も無く、手当り次第に本を讀んでゐたのであるが、

近頃だう云ふ様な撰探の下に讀むか、如何なる順序

で讀むべきかと云ふ様な事が分つて來た。

質の違ふものは比較は出來ない。すると、質の同じものだけ比較出來る

事になる。此の考を押し進めると人格の觀念やライプニッツのモナドの考に迄到達

する。一方科学的の考はこの質の違をなくして、總べて量の違に還元しやうと

するのである。吾が質の違ふものをも比較するのは抽象によるのである。具体的

のものを或原理によつて抽象する事によつて比較出來る。しかし此は一面的のもの

である。従つて科学は抽象である。具体的のものそのまヽを扱うのが哲学である。

比較つまり分類には原理が必要である。或原理を立場として分類比較する

のである。原理は一般的である、即一般的或者を立場として分類比較が出來る

のである。遂に、一般的或者が特殊化して、自己発達をして特殊のもの、

具体的のものとなるとも考へられる。

 

五月十七日 天氣 晴後曇 寒暖 暖

小野さんの家を訪ふ。勇さん不在。神軽衰弱の気味

で松本にゐる、と。倉沢巌さんに逢ふ。

 

五月十八日 天氣 小雨 寒暖 暖 発信 父 受信 母(姉) 丸善

哲学ハ自我カラ出発スル。總ベテヲ自我ヘ持來スルノデアル。

自我ハ哲学ノ根據デアリ、信仰デアル。自我ガナクナツタラ哲

学ハ存在シナイ。換言スレバ、自我ハ哲学ノ因ツテ立

ツ假定デアル。サレバ、哲学カラ見レバ、宗教デモ藝術デモ皆自

我ヲ本トシテ解釋サレル。哲学カラ宗教ヲ見ルトダウナルカ。

自我ヲ哲学ノ本トスル限リ、自我ハ非常ノ対立ハ哲学ニ於イ

テ根本的ノ事トナル。勿論此ノ自我ハ経験的ノ自我デハナク

先験的ノ自我デアル。サテ、自我ハ非我トノ対立ニ於イテ、自

我ヲ小ニスルト非我ハ大ニナル。自我ヲ無限ニ小トシタ時、其ニ

対スル無限ニ大ナル非我ガ神デアル。哲学者ハ宗教ヲカウ解

スル。従ツテ、神モヤハリ自我ヨリ生ジタモノデアル。哲学ノ立場

ニ立ツ限リ、自我ヨリ見レル事ハ出來ナイ。自我ノミガ唯一ノ実

在デアル。

然シナガラ宗教家ノ立場ニナルト神ハ又別ノ様ヲ呈ス

 

五月十九日 天氣 晴曇半す 寒暖 暖 発信 母

ル。何ヲ置イテモ第一ノ実在ハ神デアル。神ハ我々人間ガ作ツタ

モノデハ決シテナイ。自我ハ神ノ中ニ没シテ了フ。自我ノ要求カラ神

ガ出來ルト考ヘルノハ大キナ間違デアル。唯一ノ実在ハ神デアツテ、

自我ハ神ニ於イテノミ其ノ存在ヲ保チウルノデアル。宗教家

自身ノ立場ニナルト神ハカウ云フ様ナモノニナルノデアル。

カウ見ルト、哲学ト宗教トノ間ニハ大キナく溝ガアル。中々

越エウルモノデハナイ。哲学ヲ段々押シツメテ行ツテモ決シテ

宗教ハ出テ來ナイ。哲学ト宗教トハ全ク経験ヲ異ニシテオル。

聯絡ガツイテヰテ、ズルくト哲学カラ宗教ヘト橋渡シノ出

來ル様ナモノデハ決シテナイ。哲学カラ宗教ヘ如何ニシテ飛

躍スルカ、此大問題デアル。

(以上、近來宗教ニ関スル本ヲ讀ンダ事ヨリエタ結論デアル。二〇日。)

 

五月二十日 天氣 晴 寒暖 暑

放課後、帝大対一髙の庭球戦を見る。一髙の方が景気

か良かつた。其際惟るに、一髙の方が眞けん(、、)である。

それから一髙の方が頑張りがきく。

 

五月二十一日 天氣 晴 寒暖 暖 受信 丸善、妹、父

今日から十日間丸善のクリーヤランス.セール。午後行つて見る。大

したものなく、何も買はずにかへる。

 

五月二十二日 天氣 曇小雨 寒暖 冷

九時頃起きる。今度は一番遅い位だらう。

午後十時から、帝大佛教靑年會館の日曜講演を聞く。

明行成        長井眞琴氏

午後 計拾名で慶應のボートに乘り、出艇。二回雨に降ら

れる。が、大した事はなかつた。

勉強方法に関して、一つの事を思ひ出した。即ち、一学期で一つの

事を中心に勉強するのだ.例えば一学期はカント、二学期は論

理学と云ふ様な具合である。で、今学期は基督教及宗

教哲学としやう。

 

五月二十三日 天氣 晴 寒暖 暖

今井歸京。丙種合格ださうだ。今井の体は丙の体で

はないが、相手の体が良いので、相対的に丙になつたのださうだ。

 

五月二十四日 天氣 雨 寒暖 冷

人生ヲ遠キニ求ムベカラズ。日々ノ生活即人生ナリ。一日

ノ生活ハ一日ノ人生ニシテ、一年ノ生活ハ一年ノ人生。將来

ヲ夢ミ、其処ニ人生ヲ求ムルハ非ナリ。若キ日ハ人生ヘノ準

備ニハ非ズ。若キ日トシテノ一生ナリ。尊キ人生ノ一部ナリ。

 

五月二十五日 天氣 晴 寒暖 暖 発信 至誠堂第二分ル。

今日は実弾射撃なので学校は休。人数を三組に分けて、

八時から、十時から、一時からとする。余は午後の部に屬

する。晝飯を食べてから、大森射撃場へ行く。今年は

昨年と違つて依托なしなので一般に点が惡い。余は

〇、〇、九、三で計12-40。昨年の23点よりは惡い。自分

で当つたか、当らないかは分る。

かへりに、大森海岸で少時、今井と逍遙する。岸より

少し離れた棒に石を投げるが二人ともだうしても当らない。

根気がつきてかへる。京濱電鉄にのつて見る。感じの

好い電車である。

久し振りで海を見て、懐しい幼時の記憶がよみ

がへる。

カーライルの英雄論を讀了。よみ初めは昨年の正月だ

から一年以上かかつたわけ。然し、大部分今年度よんだのである。

 

五月二十六日 天氣 晴 寒暖 暖 受信 父(書留)

午前十時クレメント氏東京駅発。駅に見送る。一髙生

を初め、見送り多い。三時頃横濱解䌫帰囗すると。

氏の日本へ來た時は二十八才の靑年であつた。以來

日本に在る事四十年。今年六十八才、と。余も一年のとき

一年間教はつた。

 

五月二十七日 天氣 晴 寒暖 暑 発信 父 東京髙等工業学校 受信 醇郎

金ヲ取ラウト思ツテ、住友銀行神田支店ヘ行ツタラ、未ダ案内

ガ來テヰナイトノ事。ヨツテ至急父ノ処ヘ云ツテ、松本ノ銀行ヘ

通知シテ貰フ。

夜ニ入ツテ雨。

 

五月二十八日 天氣 半晴 寒暖 暖

夕飯後、明道館に無人になつたので、何となく出たくなつて、寮

へ行く。中七に小平寬司君が居る。連れ出す。図書館から

五味智英君北原春雄君を連れ出し、三人を連れて明道館へ

かへる。十一時頃迄快談してから、二冊宛本を借りて歸つて

行つた。

三人共特長を持つてゐる。皆元気が良く、鼻息があらい。

 

五月二十九日 天氣 晴 寒暖 暖

午前、小林北沢ト朝日新聞社デロシヤ美術展

覧会ヲ見ル、

コンドノ夏休ハ髙等学校ノ最後ノ休デアル、今カラ

ユルく考ヘテ、何トカ有益ニ過ゴシタイ.今迄ノ様ニ無為

ニ過ゴシタクハナイ.

 

五月三十日 天氣 晴 寒暖 暖

第一時間目、作文。「改むべき事」。靑木教授。

田中耕太郎著「法と宗教と社会生活」を讀む。批

評を一言にして盡せば、方向は正しいが深みが未だ足

りない、となる。

元来、諏訪大髙会ナルモノハ一学期ハ三年生、二・三学期ハ二年生ガ主ト

ナツテヤルコトニナツテヰノヲ(ママ)、昨年度ハ一回モナカツタノガ、今年ハヤルコト

ニ相談ガマトマツタ。今日長坂・今井ト相談シテ、初メテ酒抜キ

デスルコトニシタ。時日ハ今度ノ土曜、場所ハ未定。酒抜キニシタノハ、

酒ハ二三人デ大部分ヲ飲ムト云フ事、会費ノ為ニ來タクテモ來ラレナイ人ガ

アルト気兼デアルト云フ事、一・二年ノ人ハ皆ノマナイト云フ事、等カラ

デアル。酒ガナケレバ來ナイト云フ者ガアレバ、來ナクテモカマハ

ナイ。

晩こんぱ。可決事項。一.世界戯曲全集、明治大正文学全集ヲ取ルコト。

二.今度ノ日曜ノ晩、本社ノ人達ハ茶話会ヲスルコト。新聞ヲモウ一ツ取ル件ハ否決。

 

五月三十一日 天氣 晴 寒暖 暑

須藤さんの論理愈々出でて愈々良い。

明日は普及ボート・レースの為に休。