七月一日 天氣 曇小雨 寒暖 暑
漢文。不審の個所が二個所ある。調べて見ないと分らないが
大概大丈夫だらうと思ふ。
論理。殆、滿点。問題は次の如し。
Ⅰ.次の事項を簡單に説明すべし。
A.形式論理学に於ける「或る」の意味。
B.限定と概括。 C.ヴントの対象概念。
Ⅱ.矛盾の原理を説明し且如何にして否定判断の根據たるかを
述べよ。
太田和彦氏明道館へ來る。甲州へ明日行くから、お
別れに來たとの事。
七月二日 天氣 晴 寒暖 暑 受信 丸善株式会社
西洋史。中学校ノ様ナ問題ヲ出ス。皆書イタガ、簡單
デアル。然シ注意点デハナイダラウ。
倫理。「倫理学ノ方法ト道徳的反省トノ関係ヲ述ベ
ヨ」。問題ガ要領ヲ得テナイノデ、妙ナ事ヲ書ク。然シ
相当ナモノデハアルダラウ。
七月三日 天氣 曇 寒暖 暑
七月四日 天氣 晴後雨 寒暖 暑 發信 妹 母 姉 受信 母 妹
哲學問題 二(◦)問 答案ハ縦書(◦◦)ノ事
⑴ 範疇トハ何ソヤ 之ヲ詳述セヨ
⑵神ノTranzendenz トImmanenz 之カ並存ノ必要ナル所以
ヲ哲學ニ就テ説ケ.
二番ハ山ナノデ、丸暗記シタ通リ書ク.一番ハ所々思
ヒ出シテ書ク.
菅。少シ違フ。
國語。変ナ問題ヲ出ス。余リ出來ナイ。
七月五日 天氣 曇小雨 寒暖 暑
近來、妙ナ天氣デアル。晴レタカト思フト、ヂキニ雨ガ降リ出ス。
ペツ云。割合ニ楽ニ出來タ。
七月六日 天氣 雨 寒暖 暖
岩本さん、山が外れる。
今日で殆ど終へた様なものである。
七月七日 天氣 小雨 寒暖 暖 受信 姉
法政。どつちかと云へば出來た方。
軍教。仝。
午後姉を訪問しやうと思つて行つたら、牛込見付を向ふ
へ行つた所で姉が妹と一緒に來るのに逢ふ。共に新宿の
三越へ行く。因に、姉は試験は通つて、後十一日に一日あるだけ
だと。
七月八日 天氣 小雨 寒暖 暖 發信 母 姉
今日から休と。
十時起床。久し振りでゆっくり朝ねる。
小林が來る。
午後丸善へ行つて、独逸語の本二冊買って來る。休
によむ積り。
或は当分在京しやうかとも思ったが、十日にかへる
事とする。
七月九日 天氣 晴
六月二十九日 天氣 快晴 寒暖 暑 受信 姉
十時、姉ガ明道館ヘ
寒暖 暖
久し振りで天気が良い。
晝過ぎ、矢島の家へ行く。例の飯田と云ふ男と、
服部と云ふ男とが來た。二人は先へかへつたが、僕は
晩迄話してゐる。
逃げ支度をする。
七月十日 天氣 晴 寒暖 暖
午後十一時三十分飯田町駅発で北沢正氏と共に
歸郷。
七月十一日 天氣 晴後夕立 寒暖 暖 受信 第一髙等学校寄宿寮員
休息の為、一日中ゴロくしてゐる。
七月十二日 天氣 夕立 寒暖 暖
母と山浦へ行く。下古田のおばあさん、即余の
おばあさんの妹に当る人。の葬式の為。笹岡美代
吉氏に逢ふ。
七月十三日 天氣 晴 寒暖 暖
「デカルト」を少しよむ。
七月十四日 天氣 晴 寒暖 暖
「デカルト」は面白い。
七月十五日 天氣 晴 寒暖 暖
停車場で笹岡美代吉氏一行を送る、母と。
七月十六日 天氣 晴 寒暖 暑 受信 山岡克己
七月十七日 天氣 快晴 寒暖 暑
今迄に最暑い。
七月十八日 天氣 曇 寒暖 暑
夕立が來さうで來ず。然し少し涼しい。
七月十九日 天氣 夜雨、曇 寒暖 暖
哲学ハ全ク理性ノ推窮ニヨル。理性以外ノモノニヨリナサレ
ルトキハ哲学ノ立場ヲ離レルモノデアル。然シ、哲学ニヨツテ即
理性ノ推窮ニヨツテ總ベテガ了得サレ得ルト考ヘルノハ、哲
学ノ讃越デアル。理性ヲ超越セルモノトシテ認メ
ナクテハ、了得サレ得ナイモノノアル事岩本氏ノ言ノ如
クデアル。神ノ如キ此デアル。神スラモ理性ニヨツテ了得シウ
ルト考ヘテハナラナイ。理性以上ノモノハ、理性以上ノモノデアルト
認メル事ガ理性ノ職務デアル。此処カラ上ハ理性以上ノ事デ
アルト謙遜ニ認メルノガ哲学デアル。只分ラナイノト、理性以上
ノモノデアルト知リ、其以上ハ理性デハ分ラントスルノトハ違フ。分
ラント分ツタノハ、分ラナイノデハナイ。壁アリト知レバ、壁ノ向フハ
知ラナクトモ、一部分ハ知ツタ事ニナル。哲学ハ壁アリト知ル事
ダケデ滿足シナクテハナラナイ。
中沢壽三郎君が遊びに來る。
七月二十日 天氣 曇 寒暖 暑
杉本が遊びに來る。
七月二十一日 天氣 曇 寒暖 暑
七月二十二日 天氣 晴 寒暖 暑
九十度を越える。
七月二十三日 天氣 晴 寒暖 暑 受信 松浦杕作
石河稔先生の所へ遊びに行く。
同級の松浦享二君廿日午后一時四十分逝去の
報來る。二月末頃からチブスであつたので
ある。哀悼の意を表す。
七月二十四日 天氣 曇小雨 寒暖 冷
七月二十五日 天氣 晴 寒暖 暖
暑さも峠を越した觀がある。
近來の一日の生活次の如し。先づ、七時頃起床。
午前中は大体勉強する。午前中のは学問的のもの
をよむ事にしてある。午前中、一種のものだけよむのは、
退屈なので大概二種である。二種位が良ささうである。
二種であると一つが主で他が従である。二種同じ重さで
よむのは、よくない。一種を主にして、他は餘りの時間でよ
む位にしておく。午後は、散歩、運動、碁、讀書、入浴、
喫茶、晝寝等に費す。午後の讀書は大概小説である。
入浴は殆毎日する。それから、夕飯は七時頃。夕飯後
は町を歩いたり、雑談したりする。そして、十時か十一時
頃ねる。以上。
七月二十六日 天氣 晴後雨 寒暖 暖
七月二十七日 天氣 夕立 寒暖 暖
七月二十八日 天氣 夕立 寒暖 暑
七月二十九日 天氣 快晴 寒暖 暑
ほんとに夏らしい日。昨日の雨に磨かれて、山美し。
夕立。近頃天候が一定して來た。午前位晴。それから夕
立。晩はきれいに晴れて冷しい。
三村安治氏晩來られる。姉が文検に通つたと知らせて
呉れた。
父や母は、僕の文科に反対する。然し、今はもうそんな
事は問題でない。
七月三十日 天氣 夕立 寒暖 暑
七月三十一日 天氣 小夕立 寒暖 暑
晝過ぎ和郎と湖水端を散歩しての歸りがけに、山岡
君寺島君等の兄妹連に逢ふ。一連はボートに出るのださ
うだがこぎ手が少いので、一緒にのる。和郎は家へかへって
了ふ。三つに分乘する。一時間以上も乘り廻して
上つたら丁度夕立が來たので、鶴遊館へ上りこむ。
止んでかへる。人数計十七名、余も共に。