十月一日 天氣 快晴 寒暖 暖

讀書。

 

十月二日 天氣 曇後雨 寒暖 冷 受信 丸善 姉

 

十月三日 天氣 快晴 寒暖 暑 發信 姉

思想の合本を頼む為に岩波へ持つて行く。第二巻と

第六巻。

囗訳漢文大成の荀子墨子を二円三十戔で買ふ。此の

叢書は安くて三円だので、うまい奴を見つけたわけで

ある。荀子は学校でやってゐるのだが、試験の為のみで

買つたのではない。他日全部よむ時機があらうと思つて、今

を機に買つたのだ。

作文。「映晝」。妙な題を出したものだ。

 

十月四日 天氣 晴 寒暖 暖

須藤さんの論理、この次から三段論法に入る。変形

による直接推理へ入つてから四時間。今日は直接推

理の補遣と問題をやつた。

寮の掃除で午後の授業休。

 

十月五日 天氣 曇後小雨 寒暖 冷 受信 父(書留)

岩本さん進む事六頁半。レコード破り。

 

十月六日 天氣 晴時々曇 寒暖 暖

近頃又頭が澄んで來た。秋の空の如く。

何でもない様な事でも、目が進んで來ると―認識の力が増

すと、色々難しい事を含んでゐるのが分つて來る。

体験でなくては駄目だ。思索と体験だ。西田さんの本の

名前は良い名前をつけたものだ。尊ぶべきものは体験だ。体

験へ着物をつけて言表する。

 

十月七日 天氣 晴 寒暖 暖

リツケルトの「認識の対象」讀了。二回目。去年は殆分らなかつたと

言つて良い。今度はそれでも分つた。が、未だよくは分らない。追々考へ

て見なくてはならない。よむに頭の疲れる本だ。

岩本さんの次の本Scheffel:Ekkehardが到着。買はせられ

る。

 

十月八日 天氣 曇後雨 寒暖 冷

Scheffe:EkkehardガSchiller Buchhandlung

―Die Bunter Romaneノ中ニ九五戔デアルノデ、丸善

ヘ行ツテ買ツテ來ル。一円二十戔ノレクラムハ返ス事ニ

スル。

 

十月九日 天氣 快晴 寒暖 暖

夜来の雨名残なく晴れて天氣晴朗。皆でピクニックに行く。

同行七人。國府台が俄に変つて、多摩川遊園地となる。

初め小田原急行で和泉多摩川迄行つたが、迷つて京王

電車の国領から電車にのつて目的地につく。大して面白い所

ではない。歸りは眞直京王電車でかへる。新宿で今井や

山岡氏に逢ふ。

人間と云ふ奴は妙なもので、俗塵から離れて多摩川と

云はず郊外へ出ても、自然だけでは物足らず、芋を掘るとか、

食ふとか、釣るとか、ピンポン・ブランコ等の遊戯類と云ふ様な

具体的の事をしない滿足しないと見える。

 

十月十日 天氣 晴 寒暖 暖 發信 丸善

九月以来、世界大思想全集3をチビリく讀んでゐる。エピ

クテータス・アウレリウスを終へ、セネカへ入つた。此等の人々は勿

論えらいとは思ふが、何だかピッタリしない。やはり時代の違

か。

 

十月十一日 天氣 曇 寒暖 暖

世界大思想全集3の中で加藤朝鳥譯セネカが一番譯が

良い。後の二つは同じ位。

 

十月十二日 天氣 曇 寒暖 暖 受信 太田和彦

午後二時半より新田球場で対慶応戰。今井と見に行く。

勝つ。第一回慶応一点。第七・九回一髙一点?。つまり二対一。

幾年振りかでかつたわけだ。杉浦投手の出來は良かつた。

 

十月十三日 天氣 曇小雨 寒暖 寒

生きてゐると云ふ事が一つの大きな自惚だ。或は迷だとも云へるだらう。

客觀的立場から個人の微弱さを悟了したなら誰でも生きてゐる

気はしないだらう。

 

十月十四日 天氣 曇 寒暖 寒 受信 妹 戸山教会

 

十月十五日 天氣 曇 寒暖 寒

二十四日迄授業なし。

放課後橋本文夫氏の家へ遊びに行く。碁や將楳やかるたを

する。

 

十月十六日 天氣 小雨後曇 寒暖 寒 發信 三省堂.太田和彦.姉.妹. 受信 丸善

小口幸夫氏昨日歸郷。

名取五郎氏郷日立鉱山へ学校から行く。

佐藤國男氏布留文夫氏は山岡克己氏と伊賀保溫泉

へ行く。此が明道館の本年度の旅行。

芥川は何故死んだか。窮したからだ。窮して通じなかつたから、死

ぬより外なかつたのだ。然し、生きて解決の出來ぬ事は、死んだら

尚更解決はつかぬ。一展開出來なかったのは彼としては惜しい。然

し、眞面目に困難にぶつかって行つただけ彼はえらい。久米や

寛の様に問題のない又はさけてゐるのとは違ふ。とまれかれは

漱石門下第一の髙弟だらう。

巣鴨なる報恩会に宮坂準氏を問ふ。不在。体の具合

がわるく、歸郷して来年四月迄來ないと。神田へ廻つてかへる。

碁かり(ママ)大いな益をえてゐる。生活態度について。勿論

言葉では表せない。体験あるのみ。

 

十月十七日 天氣 雨後曇後晴 寒暖 寒

午後対早大野球戰を見に行く。戸塚球場。五A対三

でまける。兩方とも打撃がふるつて、面白い試合であつた。

 

十月十八日 天氣 快晴 寒暖 暖 受信 三省堂

三省堂は事務敏速だ。丸善は怠つてていかん。

午前中予行演習。文乙三は西軍第一大隊第一中隊第一

小隊。演習に使用すべき空包各自三十発宛。

久し振りで快晴。行軍中は持ちさう。

午後腕時計を買ひに銀座へ行く。服部へ行つたら、十三円のと

十六円五戔とでその間がないので、去つて天賞堂へ行つて、丁度

十五円の奴をかつてくる。

今年は演習地の加減で三里以上も歩かなければならないさうで

ある。

服装は上は冬シヤツ一枚、ヂヤケツ一枚で眞線(ママ)のチョツキをマントに包んで

持つて行つて拂曉戰の時だけきる事。下は冬ズボンの下へ夏

ズボンをはく。此はゲートルの為に冬ズボンの毛が肌へしみない為。

豆の為には石鹸を持つて行つて出來さうになつたらぬる事。

 

十月十九日 天氣 晴後曇 寒暖 冷

学校へ集る時間六時二十分。五時半頃起きた。

今市町附近で演習をする。今市日光間二里を歩いて歸つ

たので三里位歩いたわけだ。東軍の方はもつと歩いたのだ。

今日は東軍が攻撃。今日十発撃つ。

宿は三河屋。一髙で泊つた中で二番目に惡いのださうだ。晩

は散歩したり碁を打つたりする。

かなりへばる。豆は少しできた。

 

十月二十日 天氣 快晴 寒暖 暖 發信 小松和郎

昨夜色々幹部が評議の結果、拂曉戰はせず、その代

りに呼集だけする事になつた。

五時宿の亭主が「敵襲で御座います」と云つてお

こしに來た。十五分以内に集るのださうだ。

今日は中禪寺湖へ行く。馬返迄壽司詰めの電車で行き、其

から中禪寺湖迄二里羊腸の山道を歩いて行く。湖畔で今井、

藤田と三人で晝食を喫し、それからボートを出す。一時間半程

代る々々漕ぎ廻る。湖に勇姿を写す男体山、豊な紅葉、湖

岸の館、湖上のヨツト、折しも空よく晴れ、風涼しく甚だ愉快

であつた。

之より先、途中で華厳瀧へ下り、しぶきで眼鏡が見えなくな

る処迄行く。

歸りも同一のコースを取った。

下駄をはいて行つたので、豆の為によかった。

 

十月二十一日 天氣 快晴 寒暖 暑 受信 姉(來テヰル)

午前日光出発、やはり今市迄歩いて行き、今市郊外で

演習をする。西軍攻撃。余は二十発撃つ。

今市で晝食を喫し、午後二時三十五分頃今市発、午後六時

十分頃上野着。午後八時、歸宅。

今年は三度の中一番強行軍であつた。

 

十月二十二日 天氣 晴 寒暖 暖 受信 丸善

非常に暖い。

十二時にねて、十二時におきる。それでも晝もねむい。

小林が遊びに來る。

 

十月二十三日 天氣 晴 寒暖 冷

本を讀み過ぎるのも良くない。又、しばらく讀書しない期間を

おいて頭を整理したり、考へたりするのも良い。しかし、其を怠惰の

為に讀書しない事の口実にするのは惡い。

 

十月二十四日 天氣 快晴 寒暖 暖 受信 國際書房

今日から久し振りで授業がある。今学期はあと四週間。

ペツオールト氏来週から出るとかや。

 

十月二十五日 天氣 快晴 寒暖 暖

放課後学校から直ぐ、上野へ行く。天気が良いので、散歩が

てら、東京日日野球速報板の慶明四回戰を見る。結局

四対二で慶応勝ち、明治長蛇を逸す。

留守中父が來た。夕食を食べてから小野氏方へ行つて

見たら、右の腰の辺がいたむとか云つてねてゐた。大した事が

なければ良いと思ふ。兎に角かへつて、明日又行つて見る事と

する。

 

十月二十六日 天氣 快晴 寒暖 暖

三時間目があいてゐたので、父の処へ行つて見たら、ゐなか

つた。多分良くなつたのだらう。

岩本さん七頁強、レコード破り。

大学正門前南陽堂で研究社英文学叢書の中の

ベラウニングを見付けて買ふ。昔から探してゐた奴だ。

午前以後二度父の処へ行く。二度ともゐなかつたので、直ぐかへる。

 

十月二十七日 天氣 曇 寒暖 暖

 

十月二十八日 天氣 曇小雨 寒暖 寒 受信 新潮社

三四日以來、喉がおかしい。痛みはしないが咳が出る。夜の

外出が續いたので少し惡化したやうだ。今日が一番惡い。それ

でも熱はない。学校は未だ休まない。

それで、昨夜黒河内が父の居所をききに來て、一所に行け

と云つたときにも行かなかつた。今日四時過ぎ、父が來た。

少し皆と話などしてゐて同窓会があると云つて行つた。

 

十月二十九日 天氣 曇 寒暖 冷

昨日より喉よし。

小林がかきをもつて來てくれる。

 

十月三十日 天氣 曇小雨 寒暖 冷 發信 岩波書店 春陽堂 弘文堂書房

一日中家にゐる。可成り憂鬱にはなる。

 

十月三十一日 天氣 快晴 寒暖 暖

風殆よし。

岩崎忠郎先生、夕方から明道館へ來られる。

午後十時でかへられる。

ペツオールト先生、久し振りで消耗して出て來る