○十二月一日(木) 曇 寒
静養。
延世、祐二郞をつれて阪大病院へ行く。志水氏歸ったあとでむだ足。残念。
小宮山量平は全くけしからん。ヒューマニズムがない。
『ゴッホの手紙』をよむ。
今年は「我が生涯の最悪の年」であった。來年はいい年になるだろうか。來年には何だか大きな変動が來そうな気がする。
結核より、今はシッシンに悩まされている。
明けない夜はない。どん底まで來れば、やがて上り道となる。病中はあせらないこと。
帝国主義のマヒということもありうる。イギリスはスエズから引き上げた。アメリカ帝国主義、戦争政策のマヒも来年あたりには十分考えられるそれだけの條件は熟している。
発信 鍵本芳雄
○十二月二日(金) 晴 暖
午前、兒玉医院へ。
『史的唯物論』の校正できる。三〇七ページ。印税はこない。
見舞に來るべき人間。学長、山本晴義、創元社、陸井四郎。ヒューマニズムのない人間ども。
郭沫若氏來る。かつて十年の亡命生活をした。浴衣とゲタばきで日本を逃げ出した。
治療開始後滿一ヶ月。経過は予想よりいい。マイシンも十本。
山本君はダメだが、岡君は相当やるだろう。
発信 小川政泰
○十二月三日(土) 晴 暖
シッシン、悪し。延世、月曜に志水さんの所へ行く。
延世から理論社へ印税の催促を出す。
神戸へ來てからのことを考える。悪化の一途。ついにここまで來た。それにしても神戸大学はひどいことをしたものである。
シッシンで死ぬことはない。しかし、結核より厄介なものである。
シルバー軟膏は失敗。アクゼンにかえる。
雌伏の時期はある。経濟的になんとかして引きのばすこと。その間に工作する。復歸問題もしじゅう押すこと。時勢の力というものもある。予想外の出來事も起る。あきらめないことだ。
発信 靑木靖三 志水靖博、
○十二月四日(日) 晴 暖
シッシン悪し。実にいやなものだ。
醇郎來らず。
理論社、創元社、法律文化社、この三つから印税來る筈だが、來らず。
『哲学小事典』も大勢の所へ送ったのだが、何とか云ってきたのは、三田博雄、野島義一の二人だけ。
小宮山量平には実際ヒューマニズムがない。
鍵本も気のきかぬ奴だ。三浦、後藤をつれて見舞にくるべきだ。
発信 創元社 永積安明
受信 名越悦
○十二月五日(月) 晴 暖
延世、阪大へ行って志水さんに会う。グロサン注、ソラミン、ぬり薬をもらってくる。シッシン、昨日よりよろし。
いずれ神大の反動どもにかたきうちをする。十年間の苦労もむだではあるまい。夜明けも遠くない。歴史の歩みは確実である。
発信 名越悦 三田博雄 醇郎
○十二月六日(火) 晴 暖
午前、兒玉さんへ行く。
シッシン、いいらし。白いぬり薬が利くようだ。
『学園新聞』にコーンフォースの広告が出ている。
東京からの郵便物、ストップしているらし。
湯で身体をふく。
余りくよくよ考えないことにしよう。何とかなるだろう。本当の支持者も多い。狀勢の変化もあろう。
発信 山本晴義
受信 山本晴義
○十二月七日(水) 晴 暖
午後、深江まで散歩。
甘粕氏來る。『哲学史』五冊、『小事典』五冊を持って行く。
シッシン、よろし。
醇郎から手紙。不動産の件。
アジア・アラブ、中近東諸国が国連を動かしている。世界の狀勢の根本的な変化。植民主義の敗北。
民科にくらべたら神戸大学は冷タンだ。
受信 醇郎
○十二月八日(木) 曇 寒
川西君から『療養の設計』きたる。
神大Sはクラス会以下。
『世界』新年号をよむ。『哲学小事典』の広告が出ている。
国連政治特別委「一括案」を可決。アメリカは全く少数派になった。アメリカ敗れたり。
受信 永積安明 醇郎
○十二月九日(金) 晴 寒
午前、兒玉医院へ行く。風寒し。
紘一郎、ゴルフのアルバイトへ行く。
生活保護、醇郎の援助三千円を引かれる。
夜、九度。今迄の最底。
発信 理論社 創元社
○十二月十日(土) 晴 暖
午後、醇郎、和郞きたる。
中村吉治の手紙。古林㐂楽はいやらしい奴だ。
○十二月十一日(日) 晴 暖
午後、小路まで散歩。
井上さん來る。
『図書新聞』に、コーンフォース、第一巻、第三巻(上)、発売中、と広告がでている。本も印税も送ってこない。けしからん。
山本君きたらず。あれだけ云ってやったのに。
シッシン、いいけれど、まだ少し悪い。
病気の治るころ、事体は好轉するだろう。そういう狀勢判断ができる。それまでもたせることだ。
とにかく本屋というものは、揃いも揃ってけしからんものだ。
『療養の設計』をよむ。
○十二月十二日(月) 曇 暖
『認識論(上巻)』寄贈、松村一人、寺沢恒信、大井正、林和幸、靑木靖三、小松醇郎。岡君へ十部。
シッシン、少し悪い。全く厄介だ。
先髪する。病人らしくない顔になった。
コーンフォース、四分冊、十二月に一齋に出る。理論社もこれに社運をかけているだろう。それにしても、印税を送ってこねばならない。
『療養の設計』をよむ。
理論社は訳者に連絡せずに、勝手なことをする。
発信 理論社
○十二月十三日(火) 晴 暖
理論社から『唯物論と弁証法』五冊、『認識論(上巻)』一冊、着。
午前、兒玉さんへ行く。バスの窓から小川君をみる。
『認識論(上巻)』寄贈追加、野島義一。
前からのシッシンは大体いい。だが、これとは別に吹出物が出てきた。顔、手足。ベンピのためか、パスの副作用か。
山口さんから手紙。薬を送ってくれる。
亀井氏から手紙。やはり本屋では亀井氏が一番良心的である。
理論社のコーンフォース、装幀はいい。
祐二郞の誕生日。十週(ママ)年、すしのお祝い。
発信 名越悦 理論社
受信 山口栄子 名越悦 法律文化社
○十二月十四日(水) 晴 暖
理論社からようやく金がくる。
山口さんへ『哲学小事典』を送る。送料二十四円。
国連、十八ヶ国加盟成らず。国府の拒否權。
午後、散歩。
名越さん來る。
吹出物のようなもの、顔はよくなる。洗髪、顔そりの結果らしい。
つぎは創元社。
発信 理論社 山口栄子 岡好賢
受信 理論社 亀井蔀
○十二月十五日(木) 晴後曇 暖
創元社から金きたる。
吹出物のごときもの、どうもよくならない。
昨日から今日にかけて随分よくねた。心理的原因もあろう。
日本、モンゴルを除き、十六ヶ国国連加盟成る。アメリカの權威地におつ。
藤田氏來る。不動産の件。
『療養の設計』をよむ。
亀井君へ手紙を書く。
陽子に学校を止めなさいというのは、醇郎と和郞だけ。親類の人間は理解がない。
発信 創元社 亀井蔀
受信 創元社
○十二月十六日(金) 晴 暖
午前、兒玉医院。
これから一週間位寒い由。
吹出物はベンピのためだろう、とは兒玉氏の話。
神戸大学も、事ここに至って、頬被りですごすようでは、全く話にならない。やがてきびしい歴史の審判をうけるだろう。
『療養の設計』をよむ。
○十二月十七日(土) 晴 寒
なぜか分らないが、よくねむる。
夜、岡君きたる。
毒掃丸をのむ。
急に寒くなった。雪が舞う。夜、室内八度。
若干便通あり。毒掃丸の効果か。
岡君、『唯物論と弁証法』四冊を持って行く。
『療養の設計』をよむ。
○十二月十八日(日) 曇 寒
昨日から本格的な冬になる。
便通あり。毒掃丸の効果。吹出物への影響はまだ分らぬ。
民科のカンパ活動。神戸大学が依然として頬被りしているようでは無責任もはなはだしい。
『療養の設計』讀了。
とにかくシッシンにはなやまされる。
発信 創元社
○十二月十九日(月) 晴 暖
午後、深江まで散歩。
シッシン、どうもよくない。全くなやまされる。顔の方は自然によくなってきた。
雌伏のときもあるのだ。そういうときに人はきたえられる。遠からず雄飛のときはくる。その間に病気を治すこと。それまで持たせ、エネルギーをたくわえること。
『長周新聞』にようやくぼくの原稿が出る。
発信 凊水靖博、
○十二月二十日(火) 曇後雨 暖
午前、兒玉医院へ行く。
シッシン、いくらかよし。
神戸大学はまだ頬被りですます気か。ここまで來て知らん顔をしているようでは、人間とはいえない。学長の無責任。カンパ位でごまかすか。民科のカンパは、神戸大学にたいする批判である。
『ゴッホの手紙』をよむ。むずかしい。
国連は力のバランスが全く変った。この狀勢は日本にも反映せざるをえないだろう。來年は国内狀勢も大きな変化を期待できそうである。
○十二月二十一日(水) 曇 暖
午後、延世、志水さんの所へ行って薬を貰ってくる。
吹出物はパスの副作用よう(ママ)に思う。
岡君へ『哲学小事典』を送る。
小宮山量平から手紙が來る。印税の件。
今は病気をなおすことが第一だ。余りやきもきしないこと。病巢が一応安定するまでは療養専一のこと。塩田さんの予定によると、今年中で一応安定するのだが、予定通り行ったかどうか。
吹出物も、一時にパットひろがったときから見れば、よくなっている。そう心配したものでもあるまい。
今日、民科哲学部会の忘年会あった筈。小宮山量平は、ぼくの病気について一言も云ってこない。ヒューマニズムがない。
発信 醇郎
受信 小宮山量平 醇郎 靑木靖三
○十二月二十二日(木) 晴 寒
午後、省線東山駅のあたりまで散歩。
吹出物、少くも悪化の勢はとまった。
三一の『社会科学辞典』、知らぬ間に僕も監修者になっている。
コーンフォースの広告、『朝日』に出ている。
一美からリンゴ一箱きたる。
コーンフォース、あと二冊、今日できる筈。
発信 小宮山量平 岡好賢
受信 野島義一
○十二月二十三日(金) 晴 寒
午後、哲研の学生見舞に來る。
和幸氏から二千円送ってくる。
大井正から手紙。「図書新聞」の件。
午前、兒玉医院へ行く。
シッシン、若干いい。シッシンには根まけする。一時パットひろがったのが、どうやらおさまりそうだ。
「図書新聞」の件、神大も頬被りですまされなくなるだろう。古林㐂楽もあわてるだろう。結局神大の責任問題へ、問題は集中する。神戸大学にとっては恥さらしだ。それがねらいだ。これがきっかけになって、ジャーナリズムの問題になればいいが、そこまで行くかどうか。
明日あたり、大阪から、あるいは井上氏が來る筈である。
発信 大井正 伊藤一美
受信』大井正
○十二月二十四日(土) 曇 寒
法律文化社からお年玉の手帳がくる。
山口さんから薬がくる。
百枝から金がくる。
午後、深江まで散歩。
『昭和史』をよむ。
シッシンはなやみの種。
大井君の一文、どういう反響をよぶか。かなりの影響はあると思う。学長をして頬被りをしていられなくするのが一つの目的。ジャーナリズムの問題ともなれば最高。そこまで行けないかも知れない。
大阪にくらべて、どうも神大は冷淡だ。一番責任を感じなければならないのだが。
発信 竹内良知 山口栄子 亀井蔀 中村百枝 井上庄七
受信 山口栄子 亀井蔀 中村百枝
○十二月二十五日(日) 曇 寒
夕方、岡君きたる。
シッシン、いいらし。
発信 醇郎
受信 醇郎
○十二月二十六日(月) 曇 暖
『史的唯物論』『認識論(下)』一部宛着。
夕方、靑木まで散歩。岩井さんの店へよってみる。
川重のレッド・パージ、解雇無効の判決。
レッド・パージ復職斗争があちこちで出てきた。当然出てくべきもの。党中央が当然とり上げるべきもの。党中央のサボタージュ。しかし、來年は面白い展開があるかも知れない。大井の一文が何らかのきっかけになるかも知れない。
紘一郎、アルバイトで八〇〇円もらってくる。
発信 今泉三良 理論社
受信 今泉三良
○十二月二十七日(火) 曇 暖
午前、兒玉医院へ行く。
午後、山本君、重原君、川畑君來る。
夜、井上さん來る。神大の五千円をもってきてくれる。
与平氏から餅を送ってくる。紘一郎、陽子が住吉駅までとりに行く。
『社会科学用語辞典』二冊着。
シッシン、おおむねよろし。今度はよくなるだろう。だが、一度にパット治るとはいかない。
受信 小松与平
○十二月二十八日(水) 晴 暖
午後、洗髪。
与平氏から、法律文化社から金がくる。
病気になったためかえって経濟的に余裕が生じるという??なことになった。
生活保護、内職、神大のカンパ、民科のカンパ、兄弟のカンパ、印税で当分(少くも半年位)はいけそうだ。三万円位にはなるだろう。皮肉なものである。土地の売却もそういそぐこともない。
來年はレッド・パージ復職斗争が全国的に盛り上りそうだ。うまく行けば、僕にとっても來年は「わが生涯の最良の年」になるかも知れない。
カンパも川西式にやる必要はない。僕がストックしておけばいい。
発信 小松与平 靑木書店 法律文化社
受信 法律文化社 政界往來社
○十二月二十九日(木) 曇小雨 暖
午後、久しぶりで散髪。
『哲学小事典』十冊着。
來年はアジア・アフリカの問題が世界の中心問題になる。ヨーロッパは大した問題でなくなる。
來年はレッド・パージ復職問題が全国的に問題として出てくる。
十一月、十二月、續いて本が出た。この印税が來年に入ってもかなり來る。
一栄一落是春秋。
療養二ヶ月。恐らく、病菌を一応おさえたのではなかろうか。
『ゴッホの手紙』をよむ。
受信 醇郎 斯波義慧 亀井蔀
○十二月三十日(金) 晴 暖
午前、兒玉医院。かえりに、神戸銀行、寶盛館へよる。日記を買う。
午後、古林学長見舞に來る。
二年位を單位として考える必要がある。カンパについてもそのことを頭において考えること。
靑木書店から手紙。『哲学講座』改案の件。
川西の考え方は行きすぎである。あれではいけない。民科の連中もだいぶ川西に押されているようだ。
古林さんもうしろめたいことがあるにちがいない。三〇秒位でかえってしまった。
『ゴッホの手紙』をよむ。
発信 斯波義慧 政界往來社 山本晴義
受信 靑木書店
○十二月三十一日(土) 晴 寒
午後、紘一郎、祐二郞をつれて東山の本屋まで行く。
夜、岡君來る。
『図書新聞』一月一日号に「小松氏の支援へ」が出ている。
コーンフォース、一巻、二巻、三巻(上、下)、それぞれ三部宛着。
ラジオで除夜の鐘の音をきく。今年は全くいやな年だった。正月から十二月三十一日まで。だが、先に光明が見えてきた。
発信 靑木靖三
【補遺】
岡倉古志郎 財閥 光文社
現代の戦争のかげにはかならず財閥がある。財閥は経濟のしくみをうごかし、政治をあやつり、そして戦争をつくり出す。では、それはなぜかというと、財閥は、戦争や戦争経濟なしには生存できないからだ。
アメリカ、日本
石母田正 歴史の遺産 大月書店
平和とヒューマニズム、
その思想は民衆の意思の表現として、また国民みずから文化と思想を創造し、身につける事業の一部として働こうとしている。天皇制の長い統治が、国民にもたらした文化的、思想的荒廃の遺産とのたたかいであるばかりでなく、思想を「フランス流の悪徳」と呼び、「物を与える人間などは相手にするな」と教えたアメリカの支配者の政策とのたたかいである。この日本人の思想をいかにして作り出してゆくか。
松川事件、
【御見舞】
一一・四 庫本一二 玉子十ケ
一一・六 山本英一 一、〇〇〇円
一一・七 小川政恭・靑木靖三 玉子十五ケ
一一・八 長谷川 リンゴ三ケ、かき七ケ
一一・九 勤労協、加藤 玉子十ケ
一一・一二 土居 玉子二十ケ
一一・一九 哲研 玉子二十ケ
一一・二〇 近藤勝彦 玉子十五ケ
一一・二一 林省吾 一〇、〇〇〇円
一一・二七 岡好賢 玉子二十ケ
〃 山口栄子 玉子十ケ
一二・八 甘粕石介 サクマ式ドロップス
一二・一〇 醇郎 コーンビーフ、二ケ
一二・一四 名越悦 玉子十八ケ
一二・二二 伊藤一美 リンゴ一箱
一二・二三 哲研の学生 玉子十五ケ
一二・二四 中村百枝 三、〇〇〇円
一二・二七 山本晴義 菓子
? 重原、川畑 みかん一箱
一二・三一 婦人会 石ケン、タオル
一二・三〇 名和統一 一、〇〇〇円
〃 貝塚茂樹 一、〇〇〇円
〃 藤井茂 一、〇〇〇円
〃 古林喜楽 二、〇〇〇円