【1956年】

 

○一月一日(日)  晴 暖

おだやかな元日。午後、近所を散歩。たこ上げと羽根つき。大人は余り歩いていない。ねているのだろう。

昨日から今日にかけて随分ねた。年を越して安心したのだろう。

母の命日。

発信 年始狀の返事、

受信 年始狀、約四〇、

 

○一月二日(月)  晴 暖

今日も亦よくねむる。

延世、七度三分。

岩橋君きたる。

学長もいくらか責任を感じてはいる。うしろめたい所がある。

イールズ・レッド・パージの問題を一つの社会問題にしなければならない。それだけの條件は熟している。

発信 名和統一 貝塚茂樹 川西洋太郎 志水靖増、

受信 年始狀、七枚、

 

○一月三日(火)  晴 暖

午前、兒玉医院へ行く。

午後、鍵本芳雄他六人見舞に來る。

シッシン、こんどはいいらし。

仏總選擧、共産党進出。

発信 年始狀、

受信 年始狀、六枚、

 

○一月四日(水)  雨 寒

低気圧來る。風雨強し。

夕方、岡君きたる。

フランスの總選擧は今年の方向を示している。

発信 藤井茂他 年始狀、

受信 年始狀、六、

 

○一月五日(木)  晴 暖

午後、深江まで散歩。

今日あたり誰か來そうに思ったが、誰も來ない。

延世、杉原さんに診て貰う。

アメリカの戰爭政策は袋小路に入っている。今年の中に崩壊するだろう。

発信 年始狀、

受信 年始狀、九、

 

○一月六日(金)  曇 寒

午前、兒玉医院。

靑木書店から編集会議の延期を云ってくる。甘粕さんへ速達を出す。

夕方、笹川さん見舞に來る。

延世、血沈、八。まあ大丈夫だろう。

発信 年始狀、甘粕石介

受信 靑木書店 秋田和美 他 年始狀

 

○一月七日(土)  曇 寒

寒波襲來。夜、室内五度。昨夜より十度ひくい。今迄の最低。急に寒くなったので、こたえる。

今年は年始狀がいつもの年より沢山きた。今日でまずは終り。

「グロンサン注」今日で終り。

発信 古林㐂楽 他 年始狀

受信 林省吾

 

○一月八日(日)  晴 寒

朝、室内二度。

延世、与平氏へ手紙を出す。

税金の催促がくる。

大相撲はじまる。

『図書新聞』の記事の影響が出てくる。ここまできたら、徹底的に大きい問題にすること。それは單に経濟だけの問題ではない。

発信 鈴木亨 高木正孝 常井道正 土屋保男 中村吉治

受信 常井道正 土屋保男 中村吉治 出浦一成 甘粕石介

 

○一月九日(月)  晴 寒

神戸、今朝の最低、零下三度。この冬の最低。

午後、甘粕氏きたる。『哲学講座』の件。

余り寒いので、三日間ねてしまった。

税金の件、解決。

 

○一月十日(火)  晴 寒

午前、兒玉医院。写眞をとる件。

税金の件。やはり出さねばならないらし。

寒さ少しゆるむ。

発信 野島義一 瀧野晋 小川政恭 醇郎

受信 野島義一 瀧野晋 小川政恭 醇郎

 

○一月十一日(水)  曇小雨 寒

午前、東灘保健所へ行ってレントゲン写眞をとる。

延世、「特税」へ行き、一万円拂う。

山口さんから薬がくる。ラヴ・レター。

大井正から手紙。『図書新聞』の件。北大の件。健康ならいいのだが。だが、健康の恢復と共に事体が好轉するような気がする。今は病気を治すことが第一だ。

いずれ、神戸大学の方は時機がくれば徹底的にカタキウチをする。

発信 大井正

受信 大井正 道家忠道 山口栄子

 

○一月十二日(木)  晴 暖

久しぶりの、風のないいい日。

午後、本山まで散歩。

前に書いておいた原稿に「人間について」という題をつけ、『政界往來』の原稿とする。

「明治維新以上の大きな変化が一年一年と近づいている。」(柳田謙十郎)全く、世界には地すべりとでもいうべき現象が起っている。日本だけがうしろを向いている。だが、世界の大勢にそむくものは亡びる。

夜、室内で十一度。久しぶりで暖い。

発信 高木正孝 鈴木亨

受信 甘粕石介 橋倉武人 日本文化会議

 

○一月十三日(金)  曇 暖

午前、保健所。写眞をうけとる。兒玉さんへ行く。写眞は、大変よくなっているとのこと。素人でも分る。くもっていた所がはっきりしてきた。阪神御影で靑木君に会う。

『政界往來』の原稿を送る。

神戸大学のカンパ。バカげた話である。復歸させれば、自分の金を出さずにすむ。森の石松ではないが、何か忘れていはしないか、だ。

井上さんも常識的、通俗的だ。それ以上の何物でもない。

発信 醇郎 道家忠道

受信 重原??(不明)

 

○一月十四日(土)  曇 寒

午前、新関嶽雄君、谷口君來る。

井上さんはいろいろ親切にやってくれている。それは有難い。だが、井上さんの所ですべてを集約し、しかも一定の枠を作り、その枠からはみ出るものを切りすてるようなやり方は困る。

山本君も來て貰わんと困る。ビジネスのためにも。

発信 高木正孝

受信 高木正孝 山口実

 

○一月十五日(日)  晴 寒

午後、川島外二人見舞に來る。

陽子のヒステリーにも困る。

哲学部会専門部会、山本君の発表があった筈。

川島もこの前より「太った」といった。相当のスピードで太っている。顔も変ってきた。どうやら間抜けの顔になっている。

『ゴッホの手紙』をよむ。

発信 土屋保男(山口実)

受信 名越悦 図書新聞

 

○一月十六日(月)  晴 暖

午後、深江へ散歩に行く。

理論社、創元社、法律文化社、いずれも沈黙。三一も同じ。

太るときは割合に急激に太るものだ。顔が太って、間抜けヅラになった。

『ゴッホの手紙』をよむ。

今のうちに、金のかなりのストックを作っておく必要がある。カンパにも時期というものがあって、そう續くものではない。

発信 岡好賢

受信 市村仁 鈴木亨

 

○一月十七日(火)  晴 暖

午前、兒玉医院。レントゲン写眞二枚を借りてくる。

午後、荒川氏來たる。

『ゴッホの手紙』をよむ。

山田宗睦著『現代のイデオロギー』の寄贈あり。甘粕氏を通じ。

発信 市村仁

受信 婦人民主新聞

 

○一月十八日(水)  曇後雨 暖

一日中家にいる。ラジオをきく。

上林氏、専任講師になる。

アイゼンハワー、ダレスの戰爭政策はいよいよ末期的になってきた。遠からず大きな変動が起るだろう。最も愚かなのは日本政府である。

「私のすいせん本」を送る。

発信 山田宗睦 図書新聞社 山口栄子 山本晴義

 

○一月十九日(木)  曇 暖

午後、靑木まで散歩。『国際新聞』を買う。

やはり、今は病気を治すことを第一に考えること。その他のことを余り先廻りしてあれこれ考えないこと。病気の治るころには何とかなるだろう。狀勢も変るだろう。今年中位には大きく変ることも考えられる。幸に病気の経過もいい。十二月にくらべたら、だいぶ気分も楽になった。

ディーツゲン、五〇〇部製本。

『世界』をよむ。

たしかに十一月にくらべれば、気分も楽だし、経濟的にも余裕ができた。カンパ等の順序もついてきた。山形方面へのびているのが期待できる。

受信 岩波書店

 

○一月二十日(金)  晴 暖

午前、兒玉医院。入浴の許可をうる。

午後、入浴。三ヵ月ぶり。目方四九キロ。八キロふえた。生れてからの最高。また、こんなに急激に肥えたこともはじめて。一擧に二貫目ふえたには驚いた。安静度、三度から四度へ。牛肉二貫目を考えてみるといい。大変なものだ。

 

○一月二十一日(土)  曇 暖

午後、靑木まで散歩。

夜、山口栄子さん來る。

ニューヨーク株暴落。もしアイク不出馬が決定すれば、大変なことになるだろう。

哲学部会学習部会をぼくの家でやるというプラン。もう少したったらいいだろう。

山口さんからガロディ『自由(上)』をかりる。

受信 図書新聞 関西哲学会

 

○一月二十二日(日)  曇 暖

午後、紘一郎といっしょに市場の喫茶店へ行き、テレビをみる。大相撲千秋楽。鏡里優勝。二回連続。

山本君にも困る。

多くの人が正月ボケしたようだ。

延世、祐二郞、大丸へ行く。千円(ギフト・チェック)で目ざまし時計を買う。

『ゴッホの手紙』をよむ。

逆コースは強い。だが、歴史は着実に前進している。冬來りなば春遠からじ。

発信 亀井蔀、小川政泰、岡好賢、甘粕石介

 

○一月二十三日(月)  曇 寒

夕方から西風が吹き、寒くなる。西高東低の気圧配置。

午後、証子さんきたる。レントゲン写眞をもって行く。

山本君、岡君はどうも粗雜で困る。山口さんの方が緻密でいい。

日ソ交渉重要段階へ入る。結末は案外早くつく。決裂させるかも知れない。

学長も学部も責任を感じなければいけない。自分の責任を回避し、責任を他に轉嫁しているのがけしからん。うしろめたいものだから、カンパ位でごまかしている。

発信 図書新聞社 永積安明

受信 図書新聞社 名越悦 甘粕石介

 

○一月二十四日(火)  晴 寒

午前、兒玉医院へ行く。

この冬二回目の寒波。

ボツボツ仕事を始めてもいいよし。兒玉さんの話。

『ゴッホの手紙』をよむ。

受信 甘粕石介 岩波書店

 

○一月二十五日(水)  晴 寒

午後、小川君きたる。續いて甘粕さん來る。編集会議の報告。

志水さんへタバコを送る。

山本君、岡君がもう少し動いてくれるといいのだが。

この二、三日、夜、室内八度。この前の寒波ほどひどくはない。

発信 志水靖博、

○一月二十六日(木)  曇 寒

午後、靑木まで行き、新聞を買う。

岡君きたる。あとは山本君だけ。

全く人びとは勝手なことをいうものだ。川西君もだいぶ勝手なことをいうようだ。

『ゴッホの手紙』讀了。

文学部も全くおかしい。理性的ではない。GHQの干渉によって起った問題であることを伏せておいて、民科の干渉を云々するのは本末テントウである。

川西君のおしつけもよくない。

 

○一月二十七日(金)  晴 暖

午前、兒玉医院。かえりに、阪神御影で井上庄七君に会う。

法律文化社から『現代の思潮』『哲学史』の原稿來る。

午後、井上さん來る。

どうも川西がかきまわしているらしい。

山本君もこない。困りものだ。委員会も川西君に押しまくられていたのでは仕方がない。やはり甘粕さん位の人がいないとまとまらない。山本君では押しまくられるだろう。川西君もずいぶん勝手だ。

神戸大学の方はいずれ最後の審判をやる。今はホコを収めてもいい。

 

○一月二十八日(土)  曇小雨 寒

午後、風呂。目方変りなし。この位で目方の方も安定したかも知れない。

山本君がカンパの金を一ヵ月もあたためておくのは非常識というより外ない。

平常化の徴候。食慾が平常になる。十一月、十二月はガツガツしていた。急速に回復しようという要求だろう。ひるねをしなくなった。疲労が去ったことを意味する。目方も多分五〇キロ内外でとまるだろう。

反動どもは実にいやらしいことをいう。しかし、そんなものを眞面目に相手にする必要はない。無視していい。

受信 野島義一 永積安明 亀井蔀

 

○一月二十九日(日)  晴 寒

強い季節風が吹く。一日中家にいる。

緒方竹虎死去。

井上さんの云った件。神戸大学も復歸を拒否する以上、その代りに何とかせざるとえないだろう。全国で注目している。頬被りではすませないだろう。だが、外へ問題を持出しても、神戸大学へはね返ってくる。

永積さんから『わらしべ長者』の寄贈あり。

野島さんからのバタとチーズ到着。

復歸運動、病気を通っているだけに、神大も今度は少しは眞験(ママ)だろう。否定の否定。ごまかしではすませない。何もしなければ、又非難がくる。民科の動きは反感を感じてもいるが、他方こたえてもいる。

『わらしべ長者』をよむ。

発信 野島義一 山本晴義 永積安明 亀井蔀

 

○一月三十日(月)  晴 暖

午後、靑木まで行く。

神戸大学にも名案はあるまい。森の石松ではないが、一番大事なことを忘れているのだから、大した案がある筈はない。

いずれ神戸大学には徹底的にカタキウチをする。

冷戦政策の行きづまり。崩壊も遠くはないだろう。

井上さんも親切によくやってくれる。だが、限界がある。常識的であり、通俗的である。

日ソ交渉は重大な問題だ。これが妥結すれば、一つの大きなきっかけになるだろう。どうやらここらから今年の大きな変動が起りそうだ。

受信 小松与平 志水靖博

 

○一月三十一日(火)  晴 暖

午前、兒玉医院。

醇郎から手紙。塩田氏の言。少しよくなっているが、予定よりはよくない、と。兒玉さんとはだいぶちがう。

井上さん來る。靑木君からの「手帖」を届けてくれる。

池上鎌三氏死去。

写眞の見方では塩田さんの方が正確だろう。しかし、兒玉さんも経験は豊富であり、その点は重要である。身体の方は急速に回復した。しかし、それが病気の方に余り反映していないとしたら何故だろうか。これから反映するのだろうか。兒玉さんもそう見当違いをするとも思えないが。塩田さんのいうことにあまり神経質になる必要はないかも知れない。

発信 竹内良知(電報)

受信 醇郎 池上? 林和幸

【二月要記】

塩田さんの発言は相当な打撃だ。しかし、少しは良い方向に向っているのだから、悲觀するには当るまい。結核は年をもって数えるといわれている。二月や三月でよくなることは無理だろう。やはり、せっかちではいけない。かなり長くかかるつもりでいること。(一・三一)

夏から秋にかけてかなりの勢でひろがって行っていた。それをくいとめ、少しでも良い方へ向いた(少しであっても写眞で分る程度に)ということはやはり重要であろう。方向轉換である。一応病菌をおさえたといえるだろう。塩田さんの予定ほどではなくても、とにかくいい方へ向いたことは大きい。その方へ進めて行けばいいということである。二ヵ月と十日だから、そう急によくなることは無理だ。シッシンでも半年はかかる。(二・一)