○二月一日(水)  晴 寒

午後、散髪。床屋の鏡で見ると、大きい顔になった。

山口さんがヒドラジッドを送ってくれる。

受信 山口栄子

 

○二月二日(木)  曇 寒

『哲学小事典』二六〇部製本。印税五、七二〇円。

夜、井上さんに來て貰う。

岡君、ヒドラジッドを持ってきてくれる。

結局余り神経質になるなということ。大体、今迄の通りでいいということだ。

山本君は來なければならない。だまっているのはけしからん。カンパの金を一月以上もあたためておくのは沙汰の限りだ。カンパしてくれた人の意志も通じないことになる。いくら忙しいからといって、一月に一回位は來れる筈だ。

検印紙を法律文化社へ速達で送る。

発信 山口栄子 靑木靖三 法律文化社

受信 山田宗睦 法律文化社

 

○二月三日(金)  曇 暖

今朝零下一度二分。しかし、後に暖かになる。

午前、兒玉医院。

少しでも空洞が縮少(ママ)したことは、菌が負け出したことを意味する。余り神経質になるのはよくない。

神戸にレッド・パージ無効復職同盟生る。この運動が大きくなることを望む。当然「中央」がとり上げて全国的な動きにするべきである。

『わらしべ長者』讀了。

これからは生活をもう少し積極的にしよう。それが病気にも良い結果を及ぼすだろう。

 

○二月四日(土)  曇後晴 暖

午後、庫本さんの所で雜談。のち、靑木まで行く。

理論社、創元社の印税の催促。催促しないと知らん顔をしている。

塩田さんの言は余り気にしないこと。醇郎の言い方も悪い。

兒玉さんの指示に従っていれば間違いはないだろう。余りしゃべらないが、いろいろの條件をよく考えている。塩田さんの方は教條主義だ。

発信 理論社 創元社

受信 山本晴義

 

○二月五日(日)  晴 暖

午後、靑木まで行く。

今日からスクラップ・ブックを作る。

この頃また太ったような気がする。

山口さんから借りたガロディー『自由』をよみ始める。

「はじめに病気がみつかった時に、あまり病気の場所の大きくない人は、半年も化学療法をやって、効き目が目に見える(レントゲン写眞でかげが小さくなる)ようなら、座ってやれる仕事ならば、仕事をしながら化学療法をつづけるように、いわれることもあるでしょう。」(松田道雄)二ヵ月と少しで効き目が目に見えるのだから、良い方だ。心配することはない。

受信 岡好賢、

 

○二月六日(月)  晴 暖

午後、山本君、岡君きたる。いろいろの問題についての相談。

 

○二月七日(火)  晴 暖

午前、兒玉医院。やはり写眞の見方について兒玉さんと塩田さんとではかなりちがう。こういうくいちがいにも困る。兒玉さんの言う通りとすれば、かなり良いことになる。

川西も勝手なことをするものだ。強いそうでいて、全く弱い。藤本さんもおかしい。

『自由』をよむ。面白い。

岡田正三もいやらしい奴だ。部長と組んでいるにちがいない。

 

○二月八日(水)  晴 暖

午後、靑木まで行く。

岡田正三の反動的であるのは仕方ないとしても、靑木靖三は情けない人間だ。しかし復歸の問題は民科にまかせよう。こういう問題に頭を使うのは病気によくないから。

塩田さんのいうことは余り気にしなくていいだろう。病菌がおさえられたから太ってきたのだ。

病気は段階的に治る。兒玉さんの話。弁証法的である。

『世界』をよむ。

発信 林省吾

 

○二月九日(木)  晴 寒

西高東低の気圧配置。風強し。一日中家にいる。最後の寒波か。

全く悪質の放送をする奴がいる。もとは今井林太郎だろう。いずれ徹底的にカタキウチするときがあろう。いまは病気を治すのが先決問題だから、ゆっくりかまえていよう。例の問題は民科にまかせて。

もう積極的に仕事を始めた方がいいだろう。法律文化社の二冊の本の編集。

世界は曲り角へ來ている。日本も変らざるをえないだろう。

発信 甘粕石介

受信 甘粕石介 阿部文龍

 

○二月十日(金)  晴 寒

午前、兒玉医院。息子が代診。兒玉さん、病気。血沈をとる。

山形大学から見舞來る。

靑木靖三は裏切りに類する。おそらくSもそうだろう。だが、当分療養しなければならないから、そういうことには余り頭を使わないことにしよう。果報はねてまて、とはいくまいが、あわてないこと。

身体がやたらに太ってくるような気がする。

顔色が非常に良い。太っただけでなく、血色がいい。内部もよくなっている筈だ。

熱心な支持者は多い。困れば何とかしてくれる。

発信 阿部文龍

受信 山形大学

 

○二月十一日(土)  曇小雪 寒

午前、井上さん來る。農地の件。

午後、風呂。目方四九キロ。この位でとまったらしい。

今朝、零下一・六度。寒さもこの二、三日が峠。

今は療養が第一だ。他のことには余り頭を使わないこと。

一部の悪玉(その親分はおそらく今井林太郎)は悪質の宣傳をしている。しかし、他方多くの強い支持者のあることを忘れてはいけない。

理性の時代の來ることを待つ。病気の治るころには來るだろう。

今夜も季節風が強い。しかし、昨夜よりは二度高い(八―六度)。

 

○二月十二日(日)  曇小雪 寒

今朝も零下一・六度。季節風強し。各地に雪が降る。

午後、山本英一氏を訪う。

理論社、岩波書店から金がくる。

今のところ、やきもきしても仕方がない。おちついて療養すること。幸に金も余裕がある。そう遠い先の見通しまではつかないが、当分は困らない。熱心な支持者も多いし、狀勢も変るだろうし、何とかなるだろう。病気が治らなければ話にならない。

兒玉さんと塩田さんの意見のちがいはやはり気になる。

民科哲学部会、森さんの報告あった筈。

靑木靖三ぐらい大して問題とするに当らない。

発信 山形大学 理論社 岩波書店

受信 岩波書店 理論社

 

○二月十三日(月)  曇 暖

ようやく暖くなった。これからはもうそう寒いことはないだろう。

午後、靑木まで行く。

井上さんの所へよる。

療養生活に停滞の感あり。これをどう克服したらいいだろうか。

全体としてそう心配することもないだろう。塩田さんの件は余り心配しない方がよかろう。

停滞と思えるのも、ノルマルな狀態に復したことではなかろうか。体重の安定したこともそういう意味だろう。だから、おちついてこのままを續けて行くべきだろう。井上さんのいうように、たしかに積極的に悪い材料は何もない。風邪一つ引かなかった。

 

○二月十四日(火)  晴 暖

午前、兒玉医院。血沈、六と十五。血沈だけでは健康体だ。

誕生日。夕食、スキヤキ。

神戸銀行へ二万円あずける。六万円のストックのできたのは久しぶりである。病気になって却って余裕ができたから皮肉である。

堀㐂望、岡田正三が教授になったのは、部長との取りひきによるだろう。今井林太郎の防壁。大井正のいうように、復讐は他日に期す。

暖い、静かな日。春らしい気分。ぼくの誕生日。血沈の件。何か、ぼくの將來を象徴しているような、明るい方向が出てきたような気がする。これで四月から、少しでもいいから実収入のある仕事があればいいのだが。

 

○二月十五日(水)  曇後雨 暖

午後、栄町の第一銀行へ行く。海文堂へより、古川君に会う。

山口さんが薬を送ってくれる。

元町へ行ったことを大騒ぎすることが病気に悪影響を及ぼす。毎日行くわけでもない。

春もやや景色ととのう月と梅

受信 山口栄子

 

○二月十六日(木)  曇 暖

午後、岡君きたる。

永井和雄來る。

醇郎からの手紙。空洞は半分位に縮少(ママ)のよし。この前とは話がちがう。その位なら成績優秀だ。

まだ神戸大学には理性の時代は來ていない。しかし、遠からず來るだろう。今やきもきする必要はない。やがて徹底的な審判をする。

発信 山口栄子

受信 醇郎

 

○二月十七日(金)  晴 寒

午前、兒玉医院。御影郵便局で岩波雄二郎氏へ弔電を打つ。

又、寒波がきた。

紘一郎、風邪で発熱。

病気をなおし、それから神大の反動勢力にカタキウチをする。遠大な計畫である。

発信 創元社

受信 創元社

 

○二月十八日(土)  晴 寒

今朝、零下二・二度。

午後、靑木まで行く。

紘一郎、熱下る。

「第二の終戦」とはいい言葉である。「第二の終戦」を待つ。恐らく今年中に來るだろう。アメリカの戦爭政策がマヒすること。

発信 図書新聞

受信 図書新聞

 

○二月十九日(日)  晴 暖

午後、靑木へ。かえりに庫本さんのところへよる。

『図書新聞』にコーンフォースの書評が出ている。寺沢君の書いたもの。

とにかくにくらしいのは神大反動勢力である。しかし、まだ敵は強力だ。時機をまつ必要はある。それまで何もしないということではないが。とくにSの裏切行為は許せない。

『昭和史』をよむ。

土屋保男系統のカンパはまだ來ない。

発信 笠井清

 

○二月二十日(月)  曇 寒

午後、風呂へ行く。また目方一キロふえて五〇キロになる。

幸にしてかなり経濟的余裕ができた。全く数年ぶりのことであって、却って病気になってホットした所である(経濟的には)。それに土地の金もある。そうすれば、経濟的にはかなりの間持つ。だから、少し悠々とかまえること。あくせくしないこと。神戸大学はシャクで仕方がないが、カタキウチは他日を期すこと。差当って文筆活動をボツボツ始めよう。民科の部会も三月からでもはじめよう。その方が生活に張りが出て、病気のためにも却っていいだろう。三月になれば、暖くもなって楽だ。援助は成るべく長くうけておく方がいい。遠慮することはいらない。ストックも十万円にしたい。

発信 山口栄子

 

○二月二十一日(火)  晴 寒

水取や瀬々のぬるみも此の日より

午前、兒玉医院。

井上さん來る。土居君等のカンパを持ってきてくれる。永積さん悪い由。

山本君から原稿がくる。

 

○二月二十二日(水)  晴 寒

寒冷前線來る。また寒い。

午後、靑木まで行く。

山本君も頼りない。いうことが悉く外れる。

図書新聞社から『現代ソヴィエト哲学』がくる。

神戸大学の「良心」はどこかへ行ってしまった。

自民党は、世界の大勢を押しかえそうと必死になっている。だが、結局それは失敗する。

しみったれたことへ首をつっこまず、大きく構えよう。やがて遠からず勝利はくるのだ。

発信 土屋保男 山本晴義

 

○二月二十三日(木)  晴 暖

午後、名越氏來る。

夜、岡君きたる。

陸井四郎もけしからん。姫路の件その他。

ようやく暖くなった。こんどは大丈夫だろう。もう大して寒いことはないだろう。

国際狀勢、国内狀勢の大きな変化を待つ。「第二の終戦」がくるだろう。

発信 榊原美文

 

○二月二十四日(金)  曇 暖

午前、兒玉医院。午後、靑木まで。

民科のメンバーも川西に押されている。あれではいけない。

三月、四月には国内狀勢にも大きな変化が起りそうだ。いろいろの問題がかさなってきている。あるいは自民党が分裂するかも知れない。

『現代ソヴィエト哲学』をよむ。大したことはない。

陸井四郎もいい加減だ。

神戸大学も実にひどいものだ。

その中に神戸大学に復歸し、神戸大学を牛耳ってやる。それまでは悠然とかまえること。

受信 村岡哲・野島義一 政界往來社

 

○二月二十五日(土)  曇 寒

又、寒い。雪が舞う。

午後、靑木まで。

いまの日本は幕末のようなものだ。

『現代ソヴィエト哲学』をよむ。

発信 村岡哲・野島義一

 

○二月二十六日(日)  晴 暖

夜、井上さんの所へ行く。小川君來る。永積さんの件。

 

○二月二十七日(月)  雨 寒

午後、井上さん來る。

陽子もひねくれていていけない。もっと素直にならなければいけない。

『現代ソヴィエト哲学』をよむ。

 

○二月二十八日(火)  曇 暖

午前、兒玉医院。少しづつ仕事をした方がよい。元町まで行ってよろしい。

午後、醇郎來る。

『現代ソヴィエト哲学』の書評を図書新聞社へ送る。

発信 日独文化の会、

 

○二月二十九日(水)  曇 寒

また寒い。季節風強し。この冬は気候不順。それでも、寒いといっても、夜室内十度。

午後、風呂。目方同じ。きっちり五〇キロ。散髪。

『自由』をよむ。

明日から三月。やはり春がくるという喜びがある。

兒玉さんは、楽しみながら療養せよ、といった。塩田さんは病人の心理を理解しない。

明日から生活を積極的にしよう。少し積極的に仕事をしよう。まず、法律文化社の二冊の本の編集。

いずれ「イールズ・レッド・パージ」の問題は書物にしておく。

発信 松川事件

受信 榊原美文 橋倉武人 朝日新聞