○六月一日(金) 晴後曇 暑
午前、兒玉医院。寶盛館で井上さんに会う。いっしょにかえる。
名越氏來らず。二日待ちぼうけ。馬鹿にしている。
学術会議選擧の登録カードを送る。
身辺静かなり。「委員会」の馬鹿げた騒ぎも遠のいた。
当分のんびりすごそう。あくせくすることはない。経濟問題もかなり余裕はできた。コセコセすることはない。
発信 学術会議
○六月二日(土) 曇小雨 暑
午後、三の宮。メガネのフチを買う。古いのととりかえた。
乱斗国会。新教育委員会法成立。
いまに、レッド・パージの責任追及のときがくる。あわてていろいろのことをしない方がいい。時が解決する。悠然とかまえること。
小田切をよむ。
受信 名越悦
○六月三日(日) 曇後晴 暑
午後、祐二郞をつれて市場の喫茶店でテレビをみる。若の花優勝。
浅く考えていれば、今は呑気だ。深く考えれば、そうではない。一日一日のことでやきもきしないこと。
国会終了。
身辺静かなり。台風一過の感あり。三月・四月頃の「委員会」は全くバカげていた。川西もいやらしい奴だ。山口さんもピンぼけ。山本君も大間抜け。神大も腰ぬけ。ロクな人間はいない。
衣更え。
小田切をよむ。
受信 京都大学新聞社
○六月四日(月) 晴 暑
午前、兒玉医院。
京都大学新聞社から牧谿の絵が來る。
午後、風呂。
小田切秀雄『さまざまな思想の新しい関係について』讀了。
山口、川西、藤本は、変に人の家の内部に立ち入って干渉する。非常に失禮だ。中央病院で、山口、川西のいうことをはねつけたのは愉快だった。
アメリカのやることはいよいよいやらしくなってきた。おち目になったもののあわれさ。
発信 創元社
○六月五日(火) 曇後雨 暑
午後、みかげ。今井、永積、小川、靑木君等に会う。
大井正をよむ。余り面白くない。
世界中で大変革が行われている。日本だけがとりのこされている。しかし、日本にも新しい動きはある。日本の地すべりも案外早いかも知れない。自民党の分裂、日ソ交渉等々。アメリカの恐慌等。日本の変革をたのしみにして待とう。
三浦さんは優秀な娘だ。山口さんの傲慢さとは比較にならない。
ショーコフの論文。日本だけとり残されている。全くその通りだ。しかし、日本人はそうだらしのない人間ではない筈だ。近く嵐のような変化が起るだろう。植民地国家の崩壊。アメリカ自身に崩壊の原因がある。そうなれば日本は一たまりもない。
発信 大同社 京都大学新聞社
受信 大同社
○六月六日(水) 晴 暑
午後、大阪。創元社へよる。社長、保坂氏に会う。久しぶりで南へ行く。
神大も全く無責任なものだ。やがて歴史の審判はあるが。カタキウチをするまでここにいる。
ショーロホフの演説をよむ。
アジア・アフリカの民族主義の激流。どうして日本にだけ起らないのだろう。
岡君もどうしたのか。そのごだまっている。どうもやることが不正確だ。
発信 小田切秀雄
受信 小田切秀雄
○六月七日(木) 雨 冷
『山形大学紀要』着。
午後、散髪。
名越氏來る。バークレーの訳稿をもってくる。
ユーゴーとソ連にとって八年間は暗黒時代だった。たしかに世界は大ゆれにゆれている。日本だけとり残されている。しかし、遠からず日本にも大変革がくるだろう。科学的に予測できる。それまでゆっくり待とう。田中、今井等があやまる時がくる。
神戸へ來てから滿七年。全く早いものだ。追放されてから五年。よく生きてきたものだ。しかし、もう少しの頑張りだ。
○六月八日(金) 晴 暑
午前、兒玉医院。
朝、川島がくる。
夜、岡君がくる。
陽子のノイローゼが治ったと思ったら、今度は延世のノイローゼが。一日中なやまされる。全くかなわない。
山本君、ノイローゼのよし。
僕の病気もだいぶよくなった。経濟的にも若干余裕ができた。去年にくらべたら、ずっと狀勢はいい。今頃ノイローゼになるのはおかしい。
大岡昇平をよむ。
延世も全く精神力が弱い。延世も、自分がギャーギャーさわぐことで人にどんな影響を与えるかを考えねばならない。
発信 近江栄
○六月九日(土) 曇 冷
午後、三の宮。流泉書房で古川君に会う。モナリザへよる。
延世、映畫を見に行く。ノイローゼ、少しはいいらし。
アイク、入院、手術。NY株暴落。一葉落ちて天下秋を知る。大統領に出るのは無理であろう。
雜誌をよむ。
発信 亀井蔀
○六月十日(日) 晴 冷
午後、井上さんを訪う。山本さんを訪う。靑木の濵まで行く。
大岡昇平をよむ。
黄河のように悠々と。歴史は必ず行くところへ行く。目先のことで心動かされないこと。
アイゼンハウアー、恐らく再起できないだろう。発表は余りに政治的だ。
実際神戸大学は無責任だ。よく平気でいられるものだ。人道問題だ。カンパ位でごまかしている井上さんも常識以上に出ない。今井林太郎のずるさ。
受信 民科哲学部会、
○六月十一日(月) 曇 暑
午前、兒玉医院。これからは注射はカルシウム、のみ薬はパスとヒドラジッド。
醇郎から手紙。田の件。井上さんへ行って打合せ。
祐二郞、血沈をとる。一二と三〇。平常といえる。
午後、入浴。体重、五一キロ。又少しふえた。
大岡昇平をよむ。
名越君の訳をよむ。
アメリカと日本は世界の動きから置去りになっている。
雌伏のときはある。雄飛のために。
発信 醇郎 民科哲学部会
受信 醇郎
○六月十二日(火) 雨 冷
一日ぼんやりすごす。
参院選擧始まる。こんどの選擧は重大だ。
病臥以來のことを考えてみると、全くいやなことが多かった。兄弟の件(陽子のこと)。「委員会」の件。川西のかき廻し。山口さんのよけいなおせっかい。山本君、岡君の間抜け。今となってはもう過去のことだ。しかし、いやな記憶は残る。惜しいのは科学研究費。靑木君の無原則も腹立たしい。神大の無責任。
大岡昇平をよむ。
発信 亀井蔀
受信 有坂岩雄 亀井蔀
○六月十三日(水) 曇 暑
午後、第二銀映で「或る夜ふたたび」を見る。家へかえったら、岡君がきている。
大岡昇平をよむ。「レイテの雨」が一番面白い。
こんどの参院選擧は重大だ。日本でも地すべりが起ってもいい頃だ。それだけの條件はできている。参院選擧がそのきっかけになるかも知れない。自民党が惨敗すれば、そうなる。
発信 有坂岩雄
○六月十四日(木) 晴 暑
法律文化社から電報がくる。今日の京都行中止。
午後、みかげ。市川氏に会う。
夜、井上さん來る。樋口氏から葉書。
大岡昇平をよむ。
発信 亀井蔀
○六月十五日(金) 晴 暑
夏型の天気。三〇度。
午前、兒玉医院。
電産、レッド・パージ無効の訴え。復職斗爭の問題がだいぶ出てきた。この夏から秋にかけて盛んになるだろう。理性の時代の來るのも遠くないだろう。早ければ、今年の秋あたり、大きい変化がありそうだ。
大岡昇平をよむ。
発信 粟田賢三
○六月十六日(土) 曇後雨 暑
午後、銭湯。
粟田氏へ名越氏の訳を送る。
『前衛』の「レッド・パージ反対・復職斗爭」をよむ。
発信 桜井秀浩
受信 岡好賢
○六月十七日(日) 曇小雨 暑
午後、みかげ。日文協例会。「俘虜記」について。のち、三の宮へ行く。古川君に会う。新聞会館を見る。
○六月十八日(月) 小雨 暑
午前、兒玉医院。
『国際新聞』に後藤やゑさんの詩が出ている。
反レッド・パージ斗爭は全国的に発展している。この秋には、一般政治狀勢と伴って、期して待つべきものがある。ただし、それには党がこの問題に眞験(ママ)にとりくまねばならない。『前衛』に桜井氏の一文が出たのは、まともなものとしては最初のものである。これが新しい発展の契機になることを望む。ハタの「主張」が一回もとりあげないのはけしからん。
日本も地球の外にあるわけではない。日本でも地すべり的現象がはじまっている。こんどの選擧でもそれがはっきり現れるだろう。
○六月十九日(火) 晴 暑
午後、みかげ。凊水君、井上(庄)君等に会う。『国際』を三浦さんにわたす。
夜、井上さんへ行く。禮狀。
発信 後藤やゑ 山口栄子
受信 山口栄子 亀井蔀
○六月二十日(水) 晴 暑
眞夏の暑さ。
醇郎から手紙。樋口氏の件。
延世のヒステリーにもこまる。精神力が弱い。無理のない点もあるが。陽子の方はよくなった。やはり宮本百合子はえらい。
土地問題もようやく具体化してきた。二年位は楽にもつ。あわてる必要はない。世界は大きく動いている。
「アジアからアフリカへ波及した現代の民族独立意識は、もはやだれもとどめられぬ流れといえよう。」日本だけ例外ということはない。日本人はそんなだらしない民族ではない筈だ。沖縄問題が一つのきっかけになるかも知れない。参議院選も予想外の結果が出るだろう。
発信 醇郎 樋口和博 理論社 亀井蔀
受信 醇郎
○六月二十一日(木) 晴 暑
午前、兒玉医院。
午後、入浴。
エジプト独立。ナセル、ネール、チトー会談。世界はすさまじい勢で変っている。
○六月二十二日(金) 曇 暑
午前十一時家を出る。甲東園で岡君といっしょになる。十二時、関西学院へ。岡倉古志郎氏も後からくる。一時―三時、講演会。のち座談会。五時終了。
沖縄の問題重大化。日本の民族運動爆発のきっかけになるか。日本人ももう決起していい頃だ。
○六月二十三日(土) 曇後雨 暑
休養。
濵へ行く。波高し。
大井正をよむ。かなり強引だ。
発信 名越悦
受信 粟田賢三
○六月二十四日(日) 晴 涼
午後、大阪。民科。秋田、安達、岡、重原。このつぎから、コーンフォース『史的唯物論』を使う。
大井正をよむ。少し乱暴だ。
井上さんも余りに常識的で物足りない。
沖縄の問題。長期のたたかいになるだろう。
○六月二十五日(月) 曇 涼
午前、兒玉医院。
お勝手を板張りにする。
こんどの選擧には地すべり的現象が起りそうだ。街頭録音でも共産党が出てくるようになった。地すべりは、一度はじまったら途中ではとまらない。
○六月二十六日(火) 曇後雨 冷
午後、みかげ。小川君等に会う。
沖縄運動は大きく動き出した。地すべりがはじまった感じ。民族独立の運動にまで発展するだろう。日本も前向きになっていい頃だ。世界中で後向きなのはアメリカと日本位のものだ。
沖縄問題は大きい胎動。地鳴り、地響きのような感じがする。米日反動を土台からゆさぶりはじめた。
発信 中村宏 醇郎
受信 中村宏
○六月二十七日(水) 曇 暑
午後、新開地へ行く。第一映畫で「火の鳥」を見る。割合に面白い。
夜、井上さんへ行く。
大井正をよむ。
沖縄問題。アメリカのアジア支配を土台からゆさぶるようになるだろう。
本を沢山よむというようなことは大した問題ではない。それよりも「人間」がはるかに重大な問題だ。こんどの病気による収穫は「人間的成長」にある。これが人間の、哲学の魂だ。本を余り読まないというようなことは大した問題ではない。ブルジョア・アカデミズム(とくに哲学)もミイラになってきた。
発信 亀井蔀 理論社
受信 理論社 法律文化社 醇郎
○六月二十八日(水) 曇 暑
午後、入浴。醇郎來る。農地の件。井上さんにも來て貰う。
玄関をコンクリ-トでぬる。
農地問題がメドがつき、経濟的にも当分もつ。悠然とかまえること。つまらん仕事にとびつく必要もない。
七月八日の選擧は重大だ。日本の政治の方向轉換の轉機になるかも知れない。その可能性は多い。保守政党の崩壊が起るかも知れない。もうそういう時期にきている。
アイスランドからセイロンまでが、アイスランドから沖縄までになった。アメリカ軍事基地網の崩壊。ついで、アメリカ帝国主義の崩壊。植民国家の崩壊。
発信 樋口和博 吉田収 藤野渉
受信 吉田収
○六月二十九日(金) 曇後雨 暑
午前、兒玉医院。
榊原美文著『近代日本文学の研究』、猪木正道編『日本の二大政党』の寄贈あり。
上部構造の問題。
日本の夜明けは近い。
こんどの病気でどん底まで行った。行くところまで行ったので、カム・バックの方向へ向ってきた。あせらないこと。経濟的にもメドがついてきたし、悠然と時期を待つことだ。その間に十分に健康を回復すること。
神戸へ來てから滿七年。早いものだ。苦しい七年間だった。だが、えがたい経験ともいえる。それが將來の発展への土台になるだろう。大学におさまってノホホンとしている人には分らないことが分った。
受信 文部省
○六月三十日(土) 雨 暑
午後、みかげ。日文協理論部会。十人。
樋口氏へ委任狀を送る。七月四日に妥結の由。
今日で今年も半分終る。療養をはじめてから八ヵ月。
発信 醇郎 樋口金吾
受信 法律文化社 醇郎