○十月一日(月)  曇小雨 冷

午後、陽子といっしょに大和へ行き、「野菊の如き君なりき」を見る。

三日に阪大皮フ科へ行く。志水さんへ速達を出す。

『細胞生活』をよむ。讀了。

シッシン、いいのか悪いのか分らない。

発信 志水靖博

 

○十月二日(火)  曇 暑

ミノファーゲンの注射をする。

シッシン、よくないらし。

『女だけの部屋』をよむ。達者なやつだ。

自民党は空中分解しそうだ。社会党の方が与党のような恰好になった。

発信 市村仁

 

○十月三日(水)  曇 暑

午後、阪大皮フ科へ行く。志水さんに会う。注射して貰う。阪急へより、山内君に会う。

『女だけの部屋』讀了。

『世界』をよむ。

 

○十月四日(木)  晴 暑

午前、藤田氏來る。兒玉医院。神大へよる。笠井さんに会う。

船山著『哲学概論』着。

『教育科学』(十月)着。

自民党に自壊作用始まる。これは自民党だけの問題ではない。もっと大きい問題だ。日本の地すべりの始まり。古いものは亡びて行く。

シッシン、今度は本当にいいらしい。

発信 亀井蔀 理論社 山本晴義 紅松保雄 植口金吾

受信 植口金吾 亀井蔀

 

○十月五日(金)  晴 暑

午後、みかげ。注射をして貰う。

一美から十万円着。

シッシン、よろし。

鳩山が日本へかえってきてからが一騒動だ。うまく行けば社会党内閣ができる。ここらで日本も前向きになっていい。

発信 伊藤一美 植口金吾

受信 伊藤一美

 

○十月六日(土)  晴 暑

夜、井上さんへ行く。和郞が來たので家へかえる。

これから今年中の国際狀勢、国内狀勢は極めて重大だ。アメリカの大統領の選事、国連大公が大きい出來ごと。国内では日ソ国交回復。重大な国際狀勢の変化のきっかけになる。最もうまく行った場合は社会党内閣成立。片山内閣のときとはすっかり狀勢が異る。全面的なレッド・パージ取消しが実現するかも知れない。そのためにも、復職斗爭を強力にしておく必要がある。現実にこの斗爭は全国的に出てきた。日教組はすっかり立ちおくれている。日教組が積極的にとり上げるべきだ。これが出來たら有力だ。

 

○十月七日(日)  晴 暑

午前、兒玉医院。シッシンの注射。副作用でねむる。

どうも人は勝手なものだ。和郞もしかり。自分の都合で人を左右しようとする。

山口さんから薬がくる。

どうも塩田さんのいうことはおかしい。醇郎がまたそれを丸のみしているのがおかしい。

シッシン、よろし。はげてくる。

『共存』の論文をよむ。

鳩山首相、モスクワへ出発。

発信 山口栄子

受信 亀井蔀 岡好賢

 

○十月八日(月)  曇後雨 暑

午後、入浴。十三貫七〇〇匁。シッシンのカワがだいぶはげる。これでおおむねよろし。

小川夫人よらず。けしからん。

有り金、二九万円。これから一年はもつ。

今にみろ。レッド・パージの責任追及をするときがくる。そのときにはややこしい末梢的問題はふっとんでしまう。その時機はそう遠くはない。悠然と頑張ること。今年の十一月十二月がことに重大だ。

醇郎や和郞のいうことを気にする必要はない。古林㐂楽も全くいいかげんなものだ。人間とはいえない。人気とりのスタンド・プレイだけだ。

 

○十月九日(火)  晴 暑

午後、御影の銀行。分校へよる。注射をして貰う。三の宮へ行く。流泉堂で古川君に会う。

神大哲学科の講義は貧弱だ。近世哲学史概説がない。岡田氏が教授であるのに、古代中世哲学史概説をやっていない。服部さんがやっている。岡田氏は教授の資格はない。哲学科は半身不随。全くなってはいない。一度つぶして再建するより外ない。その時の早くくることを望む。紅松君が來て倫理学の講義をする。

 

○十月十日(水)  晴 暑

午前、兒玉医院。

神大哲学科は鳩山一郎のごとし。半身不随。一度つぶして再建しなければだめだ。

『共存』の原稿をよむ。福田恒存は分らないことをいう。文学者のごまかし。

 

○十月十一日(木)  雨後曇 冷

午後、みかげ。注射。小川君に会う。

『共存』の原稿の整理。

僕が健康だったら、非常勤講師になったかも知れない。紅松君が倫理学の講義にきている。あるいは、山元氏の留守中講義を引きうけることができたかも知れない。しかし、それらは大した問題ではない。大きい問題が近い中に來る。

発信 理論社 重原立

受信 理論社

 

○十月十二日(金)  曇 寒

午後、京都へ。亀井氏に会う。諸事打合せ。「ぼんち」で夕食。

レッド・パージ復職斗爭が全国的に出てきた。これから盛んになるだろう。当然行われるべきものだ。

広場の孤独。

夜、室内十九度。かなり寒い。

 

○十月十三日(土)  雨 冷

午後、大和へ行く。「祇園の姉妹」を見る。溝口のより甘くなっている。

砂川問題。激突。しかし、かれらのあせりとあがきの結果だ。

『広場の孤独』讀了。余り面白くない。

鳩山がかえってきたら、日本の政界は相当混乱する。もう戦後十一年も古い体制はこわれていい頃だ。期してまつべし。

 

○十月十四日(日)  曇 冷

午後、みかげ。日文協例会。「広場の孤独」について。

砂川立入調査中止。

『共存』の構想。

あわてて手術はしない方がいい。成るべく引きのばした方がいい。手おくれになるということはない。故障の生じることもまずないだろう。がんばっている中にいい療法が出てくるかも知れない。塩田さんのいうことはどうもおかしい。

和郞も自分の都合で人を動かそうとしている。川西も同じ。人はエゴイズムだ。

 

○十月十五日(月)  晴 寒

午後、入浴。

神大新聞部の学生來る。

『共存』の編集。

砂川の問題は、解決したわけではないが、たしかに勝利だ。これで基地拡張は非常に困難になった。今後の影響は大きい。

 

○十月十六日(火)  晴 寒

午後、みかげ。永積さん、猪野さんに会う。永積さんからパスを貰う。

『共存』の構想。

砂川の問題はたしかに一つの轉機になる。それに、日ソ交渉が妥結すれば、日本も前向きになる可能性が出てくる。

「歴史も人生も同じく、ある決定的なきっかけがあれば、五十歩でなく、百歩でなく、一瞬に千歩も歩む。」(堀田善衛)

発信 亀井蔀

受信 和郞

 

○十月十七日(水)  曇 暖

午前、兒玉医院。

午後、散髪。亀井氏から『知性』等着。

又パスをのみ始める。

シッシン、一時よりは随分よくなったが、まだ残っている。

『共存』の資料をよむ。

日本もようやく歴史の曲り角へ來たようだ。日ソ交渉も今日あたりが山だ。

発信 亀井蔀 岡好賢、

 

○十月十八日(木)  曇 暖

醇郎から手紙。山林の件等。

總ての伝染病に効く新抗生物質「シグママイシン」発見。

歴史はじれったい。しかし、歴史の歩みは確実であるし、またある時期に等期に來れば急に早くなる。どうやらそういう時期にきたらしい。明治維新のごとし。

農地の金で二年半位はもつ。それに雜収入もあるから三年はもつ。これからの三年は急轉する時期だ。

十九日午前二時までラジオをきく。日ソ交渉最後の段階へ來る。多分明日妥結するだろう。

発信 醇郎 亀井蔀

受信 醇郎

 

○十月十九日(金)  晴 暖

午後、みかげ。元町へ行く。

日ソ交渉ついに妥結。歴史の歯車は回った。

「知性」をよむ。

三浦さんに、「ぼくがモスクワへ行くときは、三浦さんを秘書としてつれて行く」と云ったら、「お願いします」と答えた。

日本もようやく歴史の曲り角へ來た。今後を期待すべし。もしアメリカの大統領選擧で民主党が勝ったら、かなりの変化が起る。世界的に大きな変動に拍車がかけられる。日本でも社会党内閣の成立は夢ではない。

 

○十月二十日(土)  晴 寒

昨日、「日ソ共同宣言」に調印。終戦後最大の事件。

急に寒くなった。夜、室内で十五度。

あと二年とみたらいい。病気も治るだろう。狀勢も変るだろう。経濟的にも二年は十分もつ。

野島さんからリンゴがくる。

 

○十月二十一日(日)  曇 暖

午前、兒玉医院。

午後、陽子、祐二郞をつれて元町へ行く。海文堂、エビヤン、流泉堂へよる。新聞会館を見る。

神戸大学新聞の原稿「自由について」を書く。

発信 後藤やゑ

 

○十月二十二日(月)  曇後雨 暖

午後、風呂。

神大新聞部の学生、原稿をとりにくる。

シッシン、少しづついい。もう逆戻りはしないだろう。

日本にも、アメリカ色一掃の時期がくる。すでにはじまった。砂川問題、日ソ国交回復。

発信 野島義一

受信 野島義一

 

○十月二十三日(火)  曇 暖

午後、みかげ。紅松君、笠井さん、永積さん等に会う。流泉堂へ行く。

『大学教授』をよむ。

世界史流動狀態だ。戦後最大の轉機。歴史は確実に進む。

 

○十月二十四日(水)  曇 暖

午前、兒玉医院。

岡君、何ともいってこない。山本、岡、重原、この辺も頼りない人間だ。

日本でも反米暴動ぐらい起ってもいい。しかし、大きな変化は起りそうだ。鳩山さんがかえってきたら相当の混乱が起るだろう。うまく行けば社会党内閣ができるだろう。夜明けがまち遠しい。一九五六年は歴史に残る年になるだろう。砂川問題、日ソ国交回復。アメリカの大統領選擧で民主党が勝てば、かなりの変化が起る。ポーランド、ハンガリー。世界は流動狀態。

『大学教授』讀了。余り面白くない。

発信 醇郎

受信 醇郎

 

○十月二十五日(木)  晴 寒

午前、岡君來る。五時間も話して歸る。どうにもピンボケだ。たとえば、三浦すみ子とでもくらべてみるといい。大きいちがいだ。

銀映会館へ行き、「日本橋」を見る。

実際民科大阪哲学部会にはロクな人間はいない。見当ちがいのことばかやっている。

発信 亀井蔀

受信 亀井蔀

 

○十月二十六日(金)  晴 寒

珍しく秋晴れの良い天気。

今日明日みなと祭り。

夜、井上さん來る。

ルフェーヴル『美学入門』をよむ。分りにくい。

 

○十月二十七日(土)  晴 寒

兒玉寛二郎氏昨夜死去。午後、おくやみに行く。

三時、みかげ。理論部会。

 

○十月二十八日(日)  曇 暖

午後二時、兒玉医院。告別式。のち三の宮へ行く。そごう、国際会館へ行く。家へかえったら重原君が來ている。民科の件。

ふつう女の方が精神力はある筈だが、家ではそうでないらしい。

『風媒花』をよむ。

暴動の時代。北アフリカ、東欧、シンガポール。日本でも暴動が起ってもいい頃だ。

発信 亀井蔀

 

○十月二十九日(月)  曇 暖

山口さんから薬がくる。川西、名古屋へ行ったよし。おかしな人間はいない方がいい。うるさい奴だった。いなくなって幸。

午後、入浴。体重、十三貫五〇〇匁。固定したらしい。シッシンほとんどよろし。

六疊間を疊がえする。

山形の坂部さんからリンゴ着。

現在の貯金額、二七〇・四〇五円也。土地の金には手をつけてないことになる。明後日は去年写眞をとった日。滿一年。この一年間は印税とカンパでやってきたことになる。

発信 山口栄子

受信 山口栄子

 

○十月三十日(火)  雨 暖

午後、みかげ。猪野さん、向井君といっしょに三の宮へ行く。

イスラエル、エジプトへ侵攻。植民国家の最後のあがき。

発信 亀井蔀

受信 亀井蔀

 

○十月三十一日(水)  晴 寒

午前、兒玉医院。不在。みかげへよる。土居さんに会う。

英仏軍スエズ侵入開始。あせりが見える。最後のあがき。アメリカをも反対に廻してしまった。英仏はまけるだろう。英仏の政權の崩壊も予想される。

去年の今日、ビケンでレントゲン写眞をとる。早くも一年たった。まだ全快はしていない。もう一年で治るだろうか。兒玉さんも死んでしまった。

いよいよ世界的大変動も始まったようだ。日本でも鳩山がかえってきたら、一騒動は免れまい。一番うまく行けば、解散、社会党内閣。

この二、三日よくねむる。一応も気勢も安静になったからだろうか。

昨年の今頃の日記をよむ。

受信 岡好賢、