別封秀三様に御届下されたく

昨日差上げ手紙御手に有り候や
昨夕急に都合により表記の處へうつり候
前ㇵ八疊間にて中々によき處に候也
月に座敷代三円  食代六円  夜具代 一円五十戔  及石油炭代 と申し候にて前よりㇵ餘程経済にして亦却てよき處に候也
持合せ金ㇵ悉皆前金として支拂ヒ只今ㇵ一寸も持合せ之無誠に困りおり候
何卆未だ御送り下さらず候ハバ電報為替にて至急御送り下され度時に借金して居ます
病気の経過ㇵ左耳、(手術を施せし方)存外よろしく明九日午後ガーゼを抜くと今日醫者より話之有り候
今日ㇵ始めての家より醫者へ参り候事とて大迷ひに迷ひ足の疲れる程歩き七八ツの交番に聞きてやうやく時間迠に醫家へ参りし候 帰りにㇵ又メガネ橋(クモノスノ様に電車がなり右も左も一条に分からぬ處)にてふみ迷ひ二時間も市中を歩きても早やつかれ果て車にのりて漸く帰り候
前の處より近くなりてもやうやくこんな様誠におかしく候

下駄が重くて足がつかれて困り候
衣服のすそははや綿がそろそろ出始め候仕方が無いから今度は袴でかくして歩くつもりに候也
醫者にも非常に易くして貰ひ亦宿所等も学生等と同じ如き生活之れより経済にㇵ致し方ㇵ之無候也
もしや自宅よりでも付添人として来り等せば此三倍はたしかにかゝる事と存候也
何処よりか手紙かはがきか来り候ハバ早速左の如きヒレヲ下げて御送り下され度

本人ㇵ只今東京小石川春日町四十五番地
信松館内にありに候間御回送下され度
小松米治■(□中に印の字)

まづㇵ用事のみ申上候也

当地ㇵ昨朝大霜随分寒く綿入の重ね着いたし候が今日ㇵ亦暖にて綿入一枚にて羽織もいらず候
木々の梢ㇵ未だ紅葉し始めず候也
御地も早や定めし紅葉過ぎて木の葉散る頃かと存ぜられ候
かしこ
小松いさの
御両親様

御前に