母上様

十月二十日附の御手紙が大変おくれて、今日着

きました、

発熱の由、長い間の疲れがでたのでしよう、

土地問題よりも身体の方が大事です、土地問題

にしても、初めから申し上げた通り、大きな時代の流れ

とゆうものがあります、無理をして歴史の流れに逆つて

も結局わ駄目なことです、情においてわしのびない

ことであつても、どうにもならないことわあるのです、隣家

や親類の人も同じことで、やはり大きな流れわ分らない

のです、埴原田にだけ居て、広い世間のことが分らないと

土地問題より大事な問題わないと思えても、そうゆう

ものでわありません、

私も成る可く早く一度歸りましよう、併し、歸つても結局

わ同じことです、国え歸つて百姓になる訳でわなし、一月二月

いてみても同じことです、歸るとしても今すぐとゆう訳にわ

行きません、公の職にあれば、個人的の問題でそう自由

に職場を離れることわ出來ません、高等学校わ大学の

ような呑気な所でわないのです、それに、大勢の人に迷

惑をかけることわそう簡單にわ行きません、個人的の問

題で公の仕事をギセイにすることわ出來ません、歸る前

にわ色々の問題を処置して行かねばなりません、併し

成る可く早く処置することにしましよう、

10月28日

攝郎