朝夕ㇵ肌寒き心地せられ木々の梢も色つきそめし折から御二方様には御変りもあらせられず入らせられ候よし何よりの御事とかげながらうれしう存上候ことに此度は御道中御変りもなく鹿教湯に御着遊バされしより御目出度存上候

次に私事いつもいつも丈夫にて毎日付属出勤愛らしき子供と手をとりつつ楽しく暮し居候  他事ながら御安心下されたく私事当年も又暑中後より引きつづき毎朝冷水浴いたし居候其志るしにや皮膚非常に丈夫に相成少しも風を引く如き事なく去る八日頃迠ㇵ肌ジュバン。に単衣物丈にて居候ほどに御座候

当校にてㇵ運動益々盛んと相成此内に又松本女学校生徒及び長野高■女学校生徒とテニスの競争をいたす筈になるい居候て目今テニス選手は早朝より非常の熱心にて球の音のたゆる間はこれなく候

先日は玉川学校及び湖南学校女生徒修学旅行として当地へ来られ今日ㇵ又下諏訪学校女生徒来長せられ候日に月に開くる御代の有がたさに女子教育の進歩のいちぢるしき実に賀すべきの事と存候

当年ㇵ諏訪をはじめ一般に米作不足のよし実に憂ふべきの事と存候私ㇵ当時炊事員となり居候が此不作の影響が師範舎迠も浸入して食費の大多数は米價を以て充たす様なる有様にて誠におどろき居候

御両親様には此度の御入湯は何日位居らるる御つもりに候か成るべく事情のゆるすかぎりは長く且つ気楽になされ出来得べくは御帰途にでも異なりたる道をとり珍しき事物や異様なる人情風俗に御接しなされ候ハバ母上様の心も晴れ心身を養ふ上に益するところ少なからずと存候先に取いそぎ御返事まで餘は後のたよりとかき残し申候

かしこ

十月十二日                               いさ能

御両親様

御まへに