母上様

 その後、紘一郎わ全快、陽子、祐二郎の二人も快方にむかい
ました。後の二人わ、前に延世の血をとつて注射したためか、軽くすむ
ようです。二人ともまだ咳が出ますが、大体平熱になりました。
余病も出ないですむでしよう。三月以來病気がつずきましたが、
この位にして切上げたいものです。
 病気が治つたら引越しという大仕事です。吹田の家え初めから
入れれば何かと好都合ですが、どうも駄目です。六月にあくといい
ますが、それよりのびそうであること。神戸えわ出來るだけ早く行か
なければならないこと、金策をしなければならないこと等です。それ
に縣營住宅を学校で都合してくれたのですし。早く入らないと失格
するということです。それで誰か泊りに行つてくれると云つていま
した。とにかく縣營住宅に入り、その上で金策をして。二度の引
越しも大変ですが、吹田え引越す工夫をするより他ないようです。
縣營住宅わ大阪と神戸の間の本山村という所にあります。学校
えわ割合近くです。吹田からですと、一時間半かゝりますが、大都
会でわそう遠い方でもありません。
 縣營住宅わ大変せまいので、荷物わごく少くして、大部分わ
スワえ送るより他ないでしよう。引越し技術も中々難しいの
でお婆ちやんに來て貰わないとどうにもなりません。15年間
のがらくたがたまつていて、どこから手をつけていいか見当がつ
きません。箱などわ橋倉さんや遠藤書店で都合してくれ
ます。この家わ私の後任の坂本都留吉氏(義範さんの奥さん((吉は正しくは土に口の新字体))
の方の親類)に譲るつもりです。


 縣營住宅わ阪神と国道電車の間で濱の方です。買物にも
不便のようで、余りいい所でありませんが、仕方がありません。
吹田の方がずつと便利で、良い所です。
 金策の方も、吹田の家どころか、引越しだけのためにも中々
大変です。本も整理してうろうと思いますが、良い本わおしいし、
うつても良い本わ本屋でも買わないので困ります。3万円を
先に貰う交渉もまだ何とも云つて來ません。
 今日校長が東京からかえつての話によると、近く発令に
なるとのことです。発令がおくれたのが却つて幸で、発令
になつたら、そういつまでも行かないでいる訳にもいきま
せん。まだ発令にならないからこうやつていられるわけです。
武市健人氏わ一人で行つて、自炊しています。まだ辞令
が出ないのに講義をしています。
 和郎がスワえ行つたと思いますが、どんな具合でしたか。
私も和郎の所で一泊しましたが、和郎が威張つていて、綾子
さんが少し可哀相なような風でした。

 当地わ今、花吹雪です。関西から東北まで花見をしま
した。

             5月6日   攝郎

 梅雨にならない中に引越したいと思います。
 私も出発前、陽子の看病で熱を出したりして、相当つかれていましたが、
幸、無事に行つて來ました。スワえよれば又おそくなるのでよりませんでした。
山形えかえつてから、少し疲れが出ましたが、もう治りました。
 東京のお婆ちやんわ相当疲れているようです。長いことですので。