①
日曜日(十一日)和郎と二人で摂兄宅訪問、摂兄
留守、八時半頃迄いたが會えずに歸つた。但し
隣りの井上さんと會つて經過を聞いた。問題は
片付かず恐らく現状のまゝ長引くであらうと。
文学部教授會のみならず広く多くの人々の支
持を得ているから摂兄個人で進退どうにもな
らない様です。轉任をはかつてもそれらの人々をす
つぽかすことになるし、又「黨員教授追放」の指
令でも出れば轉任していても同様に駄目になる。
此の指令でも出ない限り神戸問題は片付かない
様です。学長との爭いは激化している様ですが
早急の解決はないでせう。
摂兄個人の思想は到底変えられない様に見
えます。現在の所脱黨とか何を言つても無駄です。
生活の窮乏は覚悟のことでせう。延世さんに「親類で
心配して呉れるのは有難いが思想を理解して呉れる
人がないのが辛い」と言つたそうです。
黨員なることを恥とする思想は誤りです。都会で
はそういう考えはないです。オカンそう悲しまんでもいい
です。問題は生活の窮乏です。摂兄には何等かの
考えはあるのでせう。
②
とにかく摂兄の問題は一般社会情勢と共に動いていくの
で結局そう良くは望めないかと思います。現在大阪商大
にでも移れれば最も良いのでせうが今となつては手遅れ
の感がします。小生も色々考えていますが中々難しいで
す。根本は摂兄の思想ですから。
拙宅子犬を貰つて育てている。早速デイステンバーにか
ゝつて獸伊に診て貰つた。犬と猫と鶏と赤んぼと中々
大変ですので鶏本日和郎にやつた。
小生の病気相変らず。風が出ると生きた心地もしない。
今和さに家の補強工事を頼んでやつている。仕上つたら
多少いいだらうと期待している。
御無沙汰致しました。毎日雨降りで長野縣は相当疲害がご
ざいましたそうですが米沢は如何でございましたか。
御母様の皮膚炎ははつきりしませんようでどんなにかお困りの御事かと
お察し致して居ります。この度は上等の麻を有難うございました
早速染めましたらとてもよく染つて畳のへりには勿体ないようです
手間代が割に高くつきますので和郎様のところの職人さんにでも
お願いしようかと話して居ります。四五日前から工事をはじめて
いたゞいて居りますので1日ゴタ〳〵として居ります。台所が三疊に
なりましたので大変つかひよく便利になりました。
一ヶ月程前から犬をもらつて世話をして居ります。中々大変ですし
前の家のドロボー息子最近歸つて来ましたので又鶏をとりに
来るのではないかしらと(犬はまだ小さくて役にたちませんので)神経を
つかひますし丁度和郎様のお宅でほしいと仰言いましたので
さし上げました。この間はお言葉にあまえて羽織や大島お父ちやまに
おことづけ致しました。毎日お忙しく大変でいらつしやいませうに
よろしくお願ひ致します。こちらの子供達は最近丈夫で居り
ます。お父ちやまの恐風病には困ります。夏には是非皆でお伺いした
いと思つて居ります。ではくれ〴〵も御身御大切にあそばして下さいませ。
御母上様 かしこ