小松醇郎→小松いさの
1950年 10月28日

御手紙拝見。和郎は何と言つていつたのですか。拙宅ジエーン颱風以來雨漏りがして
困るのでなおして欲しいと言つているのですが全然來ない。番頭が(前にいた森氏の如
き人)一人もいないので困るとは言つていたですが、颱風被害は矢張り何十円もする。
摂郎兄の件は未だ半年位は月給出るでせう、追放と決まるまでは。
金が入用というのは現在では小額だらうと思う。一日置きに阪大え行くが
その一日に百円は要るでせうから月一、二千円位のものでせう。そのうちには
病気もなおるでせう。追放後の処置は摂兄も何か考えているでせう。
元來が覚悟の上の事の筈です。神大で不可となれば私大では勿論
採用しない。そんなに強い、分りのいい私大等ありません。今更言つても手
遅れですが小生の言う通り本年三月大阪商大え移ればよかつたです。
未だ然し決定ではありませんから小生も色々考えませう。但し小生医者
に週一、二回の外出を許可されているだけで思うに任せません。
教職以外の内職は矢張り東京です。神戸では仕事ありません。田舎は
駄目でせう。田舎物は簡單すぎて、困りものですね。
小生の病気の件色々有難うございます。但し専門医は当然承知、も
つと精しく考えています。田舎でもそういう人々の努力で結核に對する正しい
判断が養われつつあることは良いことです。肺に大きな空洞のできたのは
気胸も薬も効無く手術あるのみです。此の手術もペニシリンとマイシンとでき
たから安全にできるようになつたのです。小生は、御手紙に二、にある気胸
療法の部です。気胸がよく効く部位ならそれだけで直る筈ですが小生は
一部肋膜にユ着あり気胸が完全には効かないのです。そのユ着が引離せる
か否かという処です。引き離せず、且つ良くなるのがえらい遅れる様なら
薬というわけです。パスは効くそうですがそれだけでは効少くマイシンと併用
して初めてよく効くのだそうです。マイシンにパスを併用すれば菌が強くなつ
て後で困ることは少いのです。又マイシンをつかうにしても平林氏のように十本二十本
では量が不足で反動が來る。一応四十本が基準です。空洞患者にマイシンだ
けではかえつて悪いでせう。平林氏は此の部類ではなかつたかと思います。
とにかく結核対策は十年前とは雲泥の差で腸結核等は今ではなおり易い
病気になつています。然し長引く病気で金のかゝる病気でということは変
りなく厄介なものです。今月で女中返します。農休みに來られません
か。