十一月十六日の学校へ出る前     小松百枝
「まあ今日は雪だよと言ふ誰かの聲を床の中でうとうとと聞いた。今日雪なら少し早く起きなければ道か惡いから手間がかゝると思ひながらもうとうとと眠ってしまった。
あなたらしい言葉だと思ふておもしろくかんじました、

それから一ゆめ見た頃弟の大きな聲の唱歌に目をさました。おどろいて飛起きて時計を見ると丁度八時であった。
兄はもう朝飯を食べはじめておる、驚ひて髪をゆって湯殿へ行かうとすると雪が顔にふりかゝって驚いた。今まで雪の事など忘れていたのである。なんぼ降ったと言ってもこんなに降るとは思はなかった。もう近所の子供は大勢ガヤガヤ話合ひながら学校へ行く様である、顔もそこそこに洗っていそいでごはんを食べた。弟は何かと私に「ねぼすけのくせに」と惡口を言ふのでにくらしい。母は私のあまりあはてるのを見て「大丈夫だよゆっくりおあがり」などと云って私のおべんとうを入れておられた。やがて朝飯もおへてかばんの中をくらべて居るとそこへ弟が來てたびをはかしてくれと頼んだ、私はさっき私に惡口を言ったのを思ひ出してむりにしらん顔をして居るとこまった様な顔をして母の方へ行ってしまった。私はなんだかよい氣持はしなかった。間もなく私は道の惡い中を飛んで学校へ來た。おくれたかと思ったが幸におくれなくてよかった。
終り
かこうとした心もちがよく出てゐるそして雪の朝がそれをてつだって心もちをしっかりとらへてゐる。おもしろくよんだ