淋しい夜     小松百枝
今まで樂しく遊んでいたが友達も歸つてしまふと急にひつそりとしんとした夜に入つて行つた。
私はつまらなさにいつもの雑誌を開いて讀み始めた。
なんだか恐しくて讀んでゐてもちつとも外のことで頭へは入らない。
だうしてこんなにへんな氣がするのであらう。
なにかどろぼうが入らうとして居るのでそれとなく蟲が知せて居るのではないかと思ふと恐しくてぞうとする程である。
又考へて誰でも他人の友達が居れば淋しくもなかつたのにいなくなつたら急に恐しくなつた。
私は誰でもどんな小さな子供でも來てくれゝばよいがと思ひながらつひに讀んでゐた雑誌をふせてしまつた。姉はちょつとこちらを向ひて「二階の雨戸をしめてこやう」と言つて二階へ上がつて行かれた。
私も恐しくて急ひで上がつて行つたが眞暗でどこに姉が居られるやら分らない。
私は思はず「暗いね」と言ふと「今電氣をつけて上げる」と言つて「カチ」と音がしたと思ふと「パつ」と明るくなつた。
ようやく目がさめた様である。
後を向くとうす暗くて唯机といすが靜かにおいてあつて別に變りもない。
なんだか「ぼうと」とする様である。
二階へ來れば下がおそろしくなり下へ來れば二階が恐しくなる。
又私は恐る恐る下へ下りて行つた。
下もいつもにかはらず電氣が青く光つて雑誌は其のまゝおひてあつた。
ヲハリ
八月十八日

よく氣もちがでゝゐます。
素直ないゝ文です。

(用紙 諏訪高等女学校)