火事になりかけ     小松百枝
あまり今夜は寒いのでいつも二階でねる兄二人も二階へこだつをかけてくれとさはぎ出した。「母は下へくればよいとゆつてもなかなかきかぬ、母は、二階へ子供ぎりでこだつをつくればあぶないと言ふのである、それは去年のことであつた。眞夜中ごろ私はふと目をさましたがなかなかねむられなくてこまって居るとなんだかこげくさい様な氣がしてくる、よく氣を付けて居るとなんだか二階の様であるのでいそいで母にしらせた。母はすぐ二階へいつたので私も恐る恐るついて行った。二階のふすまを明けて見ると室中が煙だらけで兄がねているか何んだか少しもわからないくらいである。
私はいそいで勝手へ行って水を持って來て其のもへたところへいれたか火か下がけの二尺も深くもへてすみでこしらへた火の様でなかなかきへなかったがようようきへた、それからは母はどうしてもこだつで子供ぎりではねさせない。終り

わかるやうにかけた、こたつのほしいころになって去年のことを思ひ出すのもふさはしい