どつかの小僧と、とうふやのけんか
此の間私とねえさんと、あんまりさむかつたので、お湯へ行つた。着物をぬぐ処へ行つて見ると、ホテルのおばあさんと、七つぐらひのどつかの男の子とで、しきりに外を見てゐるので、私はどうゆうずら、何かあるかと思つて見ると、すぐ前の道に、とうふ屋の小僧と、どつかの小僧とまだ雨の降るのに兩方ともかさをほうりちらかして、「あゝうるせえてめえたほうが行け。」なんに荒々しい聲で言合つてゐたが、とうふ屋のかさには、あながあいていて、「そこへ雨がかかつて、びしょびしょになつてゐる所は、かわいさうで見られなかつた。私の來ないまえにくみつきかなんかやつたのか、又やるか、なて言つてゐた。どつかの小僧の方は年が十八九ぐらひで、とうふ屋は、十五六ぐらひであつた。どつかの小僧の方は年が多いだけあつてけんくわはやめろ、なんて、やめようとして、そこにあつたとうふを入れるはこみたような物をとうふ屋の小僧の前へ持つて行つた。すると、とうふ屋は、てんびんぼうでついて來た。とうふ屋の方は一つしようけんめえになつてやつてゐるが、どつかの小僧は「どうせやるなら、何にも持たなんでやれ」なんて言つてゐた。又少しの間、てめえた方が行け、なつて言合つたが何を言つてるのだかちつともわからなんだ。其の、どつかの小僧の方は、水か湯を汲みに行く所だつたので其の小僧は、ばけつをさげた、すると、とうふ屋もかついで二人はちがふ道に別れたが、別れながらもいつかみて言ろなんて互に言合つて行つた。