昨日、私と友達二人とで立石へみづぐさを取りに行つた。家を出る時は、十二時半頃でした。ことに其の日は日本晴のやうで、雨の心配はありませんでした。
すぐ家の前の、だんだんを上つて行つたが、昨日は雨が降つたので、ひかげの所はまだ道がわるくありました。
立石の一番上まで上つた時、一人の友達が、おらあ此所らでもと、とても取つたざらまだきつとあるは、なんて、さも知つてゐるやうに、私達の先へ立つてこゝらさ、こゝらさなんて、栗の木がいつぱいある所へつれて來て、首を長くして、あたりを見てゐましたが、「やあ、あそこにあるはや」なんて、下の方をゆびさしました。もう一人の友達も、「おゝそうだぞう」なんてうれしさうに。ばらやなんか、あつてもかまはずとんで行きました。私は、そうじやあゝねえと思つたが、皆の後をついて行きましたが、果してそうではありませんでした。友達は皆がつかりしたやうでした。今度は、上の林へ行けなんて言つて、皆で行きました。すると其所には、みずぐさも二三本ありましたし、小なしがあつたので、皆でうれしがつて取つてゐるとしらぬ間に、太陽は西の山へ近ずいて行きました。すると、友達の一人が、やあへえおそくなつたぞやあ早く行けなんて言つたので、見ると、いつの間にか日があたらなくなつてゐて、風が出て、そこらの黄色いなつてゐる、かやみたやうな物がざわざわとして來て急にさむくなつて來ました。皆は急に、何かに追ひかけられたやうに、それじやあ、おれもとあつた所へいくらゑなんて皆で言つて急に、せかつき出しました。しまいには私のあると言ふ所へ行くやうになりました。行つて見ると、其所は、取りからしで、ごぶといぐにやぐにやした木に、ほそいのがすうすうと二三本出來てゐるきりでした。だが下の畠に近い所には、太い木が四本あつて、それにめえめえいゝ枝があつたので、それを取りました。私は木のぼりが、へたなので、友達に取つてもらいました。
取つたり、しばつたり、折つたり、してゐる、うちに、日はもう少しでしずみさうになりました。それを見た私達はおつかなくなつつて大急ぎで、立石の坂をとんで下りましたが、荷は重い上に高下駄なので、すべりさうで、自由にはとべず、何どしりもちをついたかわかりませんでした。其の上皆はざうりでどんどんとんで來きますので、手におえなくなりました。やうやう鳥小屋まで來た時、日はとつぷり、沈みました。私達は此所まで來ると急にらつくりしたと言ふやうに、歩き出しました。