宿なしねこ(斜線で末梢してあったが採用しておく――館長)

此の間私が、何の氣なしに、門の所へ出て見ると、たあちやが、兩方の手にちようど投げかげんの小さい石を持つて、すぐ上の山の方を何かわけがあるやうに見て居た。私を見ると、にこにこ笑ひながら「今其所へなあ、あの尾の太え宿なしねこがなあ行つたぞだで、今すぐ行つて見ろ」なんて、山の方を指さして言ひました。
私は「あの、やたらに人の家のひよこやなんか取るねこずら」と言ふと、「おゝそう」なんて言つて、段々を上り出しました。私が先になつて行つた所が途中の段々の横のやぶにゐて、下へ下りて來る所でした私はねこを見ると何だかおつかなくなつたが此の時だとばかりにたゝきつけたら下へ下りつと思つたか私達の方へすごい位の早さで私とたあちやまで私は石を投げなんでゐると、私とたあちやの間へ來たので、私達は此の時だとばかりに持つてゐた石をたゝきつつけたら、一足二足下へ行つたがたあちがゐたので又上つて來て、私のまたの間が五寸ばかりあいてゐたら、其の間を、ぴゆうつと通りぬけてにげてしまひました。私は、足あたりへかみついたと思つてびつくりして、石の上へどつかりしりもちをついてしまいました。兩足をぐいと小しおしてひろげて通つて行つたのでよけえびつくりしました。そして其のねこはたあちやの家の物置き小屋のうらの所へがけをころげるやうに、飛んで行きました。私達は其の後を追つて石を投げたが一つもあたりませんでした。

 宿なしねこ
此間私が何の氣なしに門の所へ出て見ると、たあちやが兩方の手にちようど投げかげんの小さい石を持つて何かわけが有さうに、山の上を一生けんめえに見てゐました。私を見ると、にこにこ笑ひながら「今なあ之山の上の方へ尾の太くてみじけえ宿なしねこが行つたぞ、だで行つて見ろ」と言つたので、私はすぐ「あのやたらに人の家の雞を取るねこずら」と言ふと、「おゝ」なんて、たあちやは一生けんめえになつて言つてゐた。其所で私も石を三つばかり拾つて段々を上りはじめました。所がねこは左がわのやぶみたやうな所から出て來て、下へ下りて來る所でした。私は先に立つて行つたけれどもいざとなつたら、何だかおつかないやうな氣がして石を投げなんでゐると、たあちやが一つ投げました。するとねこはどうしても下へ下りつと思つたかえらい勢で私達の方へ來ましたそして、私とたあちやの間へ來ましたそうするとたあちやはむきになつて石をたゝきつつけたので、いかなごうぢよなねこでも、今度は上へ上つて來て、まうやうに、私がぽかんとして其様子を見てゐたまたの間を風を立てゝ、、、、、通つて行きました。私はたゞでさへおつかながつてゐる所を、またの間なんか通つたので、私は食つついたと思つて、ひやつとしたと思つたらどつかりしりもちをついて、段々へこしかけてしまひました。ふつう、そんなに強く石の上にこしやなんかかければ、しりがいたくていたくてたまらないのに其の時はびつくりしたせいかちつともいたくはありませんでした。たあちやはすぐ石を持つて逃げて行く所を投げましたが私は、しりもちやなんついてしまつたので、其所では一つも石を投げませんでした。たあちやは又すぐ後をおつかけて行きましたがねこがすぐそばにゐて、石をなげてる時はだれも、何にも言ひませんでした。私もたあちやの後をおつかけて行きました。ねこは、たあちやの家の物置小屋の裏の方へ行く、がけを飛下りて行きました。其の後を私もたあちやも石を投げたが一つもあたりませんでした。