昨日の夕方五時頃、私が表へ出てゐるとすぐ向ひの家のやすまさ、と言ふ今一年のやつが竹馬に乗つて一間ぐらひ行つては落ち又一間ぐらひ行つてはおちしてゐたので私が、それを見てゐると、私にも乗れさうのやうな氣がして來たので、一つかりてやつてみようと思つて、これかせつと言ふと兄とはちがつてとてもきまりよくかせた、私はこんなものなんだと思つて、やすまさ、の家の、げんくわんの所にうつついて立つた。けれども思ひの外、立つた時はおつかなくて足が出なんだ。竹馬に乗つてゐる時も下駄をはいてゐる時のやうな氣がして一生けんめえに足を持ち上げてゐた。
 私はそれに氣がついたので、いそいで手でぼうを持上げるやうにしつと思つたけれども、もう體のちようしが取れなくなつて、ころびさうになつたので、ぼうを持つたまゝ下りてしました。その時は五寸ぐらひ進んだ。やすまさと、ばんてんがはりにやつて、いよいよ乗れさうになつて面白くなつて來たと思つたら、家で呼んだので、いやいやながら家へ行つた。又大いそぎで家を出て來て見ると、やすまさは一人で庭に何かしてゐた。私はこれはうまいと思つて又かりつと思つてゐると、たあちやが來て竹馬のある所を私より先に見つけて、竹馬を持ち出しました。そして、おれが見つけたでおれつからさなんて言つて先に乗りました。たあちやも生れてはじめてでした。たあちやは私と同じやうにすぐ下りてしまひましたが、ぼうをはなすので、兩方へびしやんとたをしたので横にあつたせんめんきをもう少しで、すぐそばのどぶへ下さつとしました。それで私のばんが來たので、私は思ひ切つて乗り出しましたが一間ぐらひ行つたら、前へころびさうになつたので下りましたが、たあちやのやうにはしませんでした。やすまさは四寸ぐらづつ歩いて行きましたが三間ぐらひ行きました。こうして二三度くりかへすと私はどんどん歩いて、六七間はなれてゐる電信柱まで行き歸りしました。やすまさは、其の前の日よりならつてゐるので、私と同じ位でした。たあちやは同じく、横へぼうをぴしやんところばしてゐました。五六度くりかへすと私はやすまさよりうまくなりました。すると、やすまさの家では、お湯へ行くので、やすまさも行きました。すると間もなく、たあちやの家でもごはんだと言ふので私は一人きりになつたが、一回だけやつて、家へ行こうと思つて、電信の所より乗りはじめた所へ歸つたら、やすまさのけちのにいさんが新聞をくばつて歸つて來ました。私は其の竹馬を返し、、て家へ歸りました。