○十一月一日(木)  曇後晴 寒
十二時二十分から定例会議。五日より三週間休校に決定。寮は完全自治となる。生活課の没落。
母、陽子共に八度。
今日午前零時、人口調査。

○十一月二日(金)  曇小雨 寒
理甲二、独語。これで当分授業無し。文二、道義は東洋と西洋の話の途中、哲学はピタゴラス学派の途中。理甲二、独語はAmmergauの途中。何れも切りが悪い。
山下さんへ陽子の薬を取りに行く。大映へ寄る。
夜、校長を訪ふ。
休暇中の図書貸出しで図書課多忙也。
マッカーサーより教育に関する指令あり。

○十一月三日(土)  晴後冷雨 寒
明治節。九時から拝賀式。後、教授会。マッカーサーの指令。生徒委員会。形式主義の崩壊。
午後、寒いので蒲団をかぶってねる。休養の一日。

○十一月四日(日)  曇後晴 寒
午前、本局へ速達を出しに行く。村岡さんの所へ寄る。キエルケゴオルをよむ。
午後、日活へ行き、“愛の暴風”をみる。大船の白痴映晝。街に着流しの女の人がふえた。
和辻哲郎著“ゼエレン・キエルケゴオル”読了。大正四年にこれだけのものを書いたのは感嘆に値する。
夜、福永が來る。生徒の動きを知る。
今日から冬服(背広)となる。この方が暖い。これでDemocracyとなる。

○十一月五日(月)  晴後雨 寒
午前、学校。今日まで図書貸出しを行ふ。学校は至って閑静也。
三日、四日の東京の買出部隊は100万人也。行く所迄行くより外ない。日本は假死状態也。
“Entweder Oder”をよむ。
受信 今泉三良。

○十一月六日(火)  雨後曇 寒
午前、学校。
午後、山下さんへ薬をとりに行く。学校へかへる。
夜、八時すぎまで電燈つかず。

○十一月七日(水) 曇後雨 寒
午前、母と延世米をとりに行き。留守番をする。学校の休みもいいが、家の用を仰せつかるのはかなはん。阿部肇と塚本哲人來る。ひるまでゐる。産婆來る。
午後、学校。
夜、田中金一來る。

○十一月八日(木)  冷雨 寒
午前、学校。
午後、学校。定例会議。龍山に雪が降る。一段と寒くなった。
大畑氏道場へお引越し。
補導会の補習教育を山高で引受けることにした由。

○十一月九日(金)  晴 寒
午前、学校。大畑氏お引越しにつき休み。キエルケゴオル著宮原晃一郎訳“憂愁の哲理”読了。
午後、学校。
夕方、母と共に駅へ荷物を出しに行く。本局へ寄って和郎へ電報を打つ。
今日は概して良い日の方であった。
官立女子大学が出來る由。

○十一月十日(土)  快晴 暖
昨夜は相当の降雨。今日は小春日和。
午前、学校。“アンドレ・ジイド全集第九巻(評論)”の中“ドストイエフスキイ論”(秋田滋訳)読了。非常に良い論文である。ドストイエフスキイに對する眼を開かれた感あり。特に第三領域の問題、キエルケゴールとの関係。
午後、深町さんに乳母車をかへしに行く。後、街へ行き、大映へ寄る。家へ歸ったら母と延世衝突中。政世さん來らず、これが契機らし。母も意地の悪いことを云ふ。延世泣く。
夜晝哲学を考へる。論文のプラン出來。併し尚よく勉強して考へること。

○十一月十一日(日)  晴後雨 暖
午前、山内義雄訳“窄き門”読了(ジイド全集第一巻)。之は余り面白くない。
午後、外出。遠藤へよる。純平氏と一緒に大映へ行く。“無法松の一生”を見る。二度目だが大変良い。外食券食堂で橋倉さんに夕食の御馳走になる。
家賃來月から50円となる。
日本ニュースに学校騒動あり。物理学校及び上野高女。
小松清訳ジイド“ソヴエト旅行記”(岩波文庫)読了。之は大変面白い本である。

○十一月十二日(月) 曇後晴 寒
午前、学校。今日から各室に木炭一日100匁宛使用のこと。今日からオーヴァーを着る。
午後、学校。さつま芋500匁(1円50銭)の配給あり。
シエストフ“悲劇の哲学”をよむ。シエストフよりジードの方が良い。
又大変寒くなって來た。
和郎から返電來らず。
二階に炬燵をかける。

○十一月十三日(火)  快晴 暖
午前、学校。珍しく小春日和。
午後、本局へ行って醇郎へ電報を打つ。貯金の拂出口に人が行列してゐる。高陽堂迄行く。暖い。学校へかへる。
河上徹太郎、阿部六郎訳シエストフ“悲劇の哲学”読了。

○十一月十四日(水)  晴後曇 寒
午前、学校。午後、同じく。
“文藝春秋”(十月号)をよむ。面白し。
山形市の人口九万弱也。
今朝の温度は零下二度也。
桝田啓三郎訳“反覆”(キエルケゴール選集)読了。
風呂桶修繕成了。
母も延世も不愉快也。

○十一月十五日(木)  雨 暖
午前中家へゐる。鬼頭英一訳“懼れとをののき”読了。漸くキエルケゴールにも親しんで來た感あり。
午後零時半―二時半、定例会議。軍医学校は昨日を以って引上げ完了。寮の件等。
桑田秀延訳“基督教に於ける訓練”読了。

○十一月十六日(金)  曇小雨 寒
午前、学校。午後、同じく。
久し振りで家で風呂をたてる。
夕食、陽子全快祝でお萩。陽子風呂に入る。発病以來一ヶ月也。
勝川、工藤、荒田、望月、平松、岡本、榊原。
村岡氏文二2の擔任。
受信 吉田収。

○十一月十七日(土)  曇小雨 暖
午前、学校。藤原正高訳“瞬間”読了。キエルケゴール一応一休み。
午後一時、赤十字。第四回自由懇話会。フスコ少尉來る。三時終了。ジープで寺町迄來る。村岡さんの所へ寄る。
母、打撲傷。
弘前高校、岡山医大盟休。

○十一月十八日(日)  曇後晴 暖
午前、読書等。
午後、日活へ行く。“家庭教師”を見る。
学校ストライキ切り也。之も必然的現象である。山高でも大掃除が必要である。輿論を無視して、勝手なことをしてゐた幹部連は退去すべきである。
日活へ行く前高波さんの所へ寄る。
蓮田善明著“本居宣長”読了。之は宣長の曲解である。

○十一月十九日(月)  晴 暖
午前、学校。三木清、桝田啓三郎訳“アイロニーの概念について”読了。
午後、郵便局で電報を打つ(桐生)。神谷氏を訪ふ。一緒に学校へかへる。政世さん縁談成立の由。
綾子さんから電報。和郎大篠津にゐる由。
戦争犯罪人十一名発表。荒木大将、小磯大将、鹿子木員信等。
外割のさつま芋配給あり。紘一郎、体力検定。
谷川徹三著“生活・哲学・藝術”所収“浪漫主義”読了。これは良い論文である。
受信 岩波茂雄。

○十一月二十日(火)  晴 暖
午前、学校。
午後一時四十分から校長室で会議。進駐軍の件。
子供の騒々しいこと限り無し。紘一郎ほどうるさい子供を知らない。
休みが長くて退屈である。
夜、満月美し。この頃割合に天気よく暖い。
延世、工藤さんへ行く。
神保光太郎訳“誘惑者の日記”読了。
教官室元の部屋へ移轉。

○十一月二十一日(水)  曇 寒
午前、学校。進駐軍の件。
午後、同じく。
勝川、荒田等の頑迷度し難し。時代にセンスを全然缼いてゐる。ストライキになる迄は悟らないであらう。校長は流石に若干分ってゐる点がある。
又日本物をよみ始める。村岡さんの“日本精神史研究”をよみ始める。

○十一月二十二日(木)  雨後晴
午前、学校。
午後十二時二十分から定例会議。進駐軍の件等。二時終了。
田島義雄氏來訪。補導会の件。承諾する。
留守中に結城光太郎來訪。
十一月一日の人口調査の結果発表さる。変動多し。
余の研究は西洋哲学と日本思想と平行して行はれる。特に前者に於いては実存哲学の発展、後者に於いては国学がテーマである。明治以後の思想も亦日本思想史研究の一環を為すものである。
日本思想史研究に於いては山田孝雄氏、河野省三氏の行き方はわろし、和辻哲郎氏、村岡典嗣氏の行き方をとるべし。
來週からの時間割出來。余は4時間増して14時間となる。合併を行へば良いのである。

○十一月二十三日(金)  快晴 暖 新嘗祭
小春日和の良い天気。十一月に入ってからは案外良い日が多い。午前、読書。
午後、日活へ行って“伊豆の娘たち”を見る。
山田孝雄述“国体と修史”をよむ。
村岡典嗣著“増訂日本精神史研究”読了。

○十一月二十四日(土)  晴 暖
午前九時から轉入生徒入学式。校長の訓辞あり。來週から授業再開。余は文二1の擔任。文二2は村岡氏。
畠へ行く。大根の配給。十貫目宛。
午後、学校へ行く。鰛の配給。
畠へ行くこと計三回。20貫以上也。
入浴。

○十一月二十五日(日)  曇 寒
午前、家にゐて読書等。
午後、外出。高陽堂迄行く。大映へ寄る。高校生が多くなった。
高専校長移動発表。宇野㐂代之介氏辞職。
入浴。
明日から授業再開。
食糧輸入許可さる。

○十一月二十六日(月)  晴 寒
今日から授業再開。学校も活気づく。文科二年の哲学二時間。話をする。
午後、学校。
何故か今日は疲勞を感ずる。
大相撲千秋楽。
常木氏肺炎及び腎臓炎の由。
眼鏡のためかこの頃目が疲れて頭が痛む。
遂に紅茶終りとなれり。

○十一月二十七日(火)  曇小雨 寒
午前、理甲二、独語、写し。
午後二時半から火曜会(生物教室に於いて)。寺﨑さんの原子爆彈の話。五時半終了。
今迄で一番寒い。
羽黒山優勝(全勝)。羽葉山引退。相撲界もゆらぐ。

○十一月二十八日(水)  曇後晴 寒
午前、文二、哲学。ピタゴラス学派終り。時間の終りに級長選挙。文二1は級長、工藤精一、副
級長、安倍健次郎。
午後一時から会議。二時終了。後、校長より話あり。余は生徒課員也。意外の感あり。大畑氏、教務課長。花岡氏、教務課兼生徒課。田中氏、図書課長。
午後一時より生徒大会。
村岡典嗣著“続日本思想史研究”読了。

○十一月二十九日(木)  晴 寒
朝凄く寒い。道凍る。文二2、道義だが月曜とかへて哲学、エレア学派。理甲二1、独語。
午後一時から会議。人事移動発表。生徒大会の件等。二時終了。深町さんと打合せ等。大畑さんの新宅(柔道場)へ寄る。
会議の際ホルツェル氏、渡辺氏の挨拶あり。

○十一月三十日(金)  曇後雨 寒
理甲二2、3、独語。“Ammergau”終り。キリストの話。
十二時半、校長室で級長任命式。後、主事室へ引越し。常木君を見舞ふ。
一時から生徒大会。四時終了。三教授の問題。
紅茶一罐入手。神谷氏より。
久し振りで配給酒をのむ。
受信 小口治男、中野三郎。