○三月一日 (金) 晴 寒
三校時(文二2)を一校時にかへる。文二、哲学、ストア学派。
午後十二時十分駅へ。武田正義氏と会ふ。一時山形発、二時すぎ大石田着。地方事務所の村山氏と一緒になる。亀井田村へ行く。役場へ行く。国民学校へ行く。役場へかへって泊る。この村は感じ悪し。
○三月二日 (土) 晴後曇 寒
九時亀井田第一国民学校へ行く。十時―十一時、話。十一時―十二時、座談会。聴衆七、八十名。
午後、福原へ行く。役場へ泊る。宮沢から断りの手紙がくる。風呂に入る。
発信 布川角左衛門.
○三月三日 (日) 曇 寒
福原村国民学校へ行く。十時半―十二時、講演及び座談会。聴衆約五十名。
役場へかへって畫食。この村役場は亀井田よりよろし。午後尾花沢迄歩く。第一国民学校へよる。民藝展を見る。加登屋へ泊る。
山形を立つ前“世界”二月号着。同誌をよむ。田中耕太郎は完全に反動的である。
尾花沢の国民学校は感じよろし。
発信 神谷秀夫.
○三月四日 (月) 雨一時晴 寒
午前、村山氏楯岡へ去る。代りに大戸氏楯岡より來る。十時加登屋を去る。十二時少しすぎ、玉野国民学校へ着く。学校で畫食。
午後、石山と云ふ家へ行く。此処が宿所。夕食、入浴。
○三月五日 (火) 晴 寒
七時起床。九時玉野国民学校へ。十時すぎから講演及び座談。十二時終了。
午後一時玉野発、二時四十分常盤村役場着。大戸氏先に來てゐる。何処も農業会選擧で忙し。民家に泊る。
夜、青年学校の土屋先生及び青年団幹部十数名來る。
川端康成著“愛”(養徳叢書)をよむ。一寸良い所がある。
○三月六日 (水) 曇 寒
午前九時常盤国民学校へ。十時―十二時、講演及び座談。職員全部及び青年団幹部その他。この村が一番進んでゐる。畫食は先生達と会食。
午後一時半常盤発、三時尾花沢着。三人で菅氏の家へよる。夕食の御馳走になる。
六時十五分尾花沢発、大石田で上野行に乘りかへ八時半山形着。九時家へ着く。
陽子合格。
受信 八木清.
○三月七日 (木) 吹雪 寒
午前、学校。授業はあるのだが、今日迄休み。学校は三月十三日迄。四月十一日から試験。校長は弘前に行って不在。教授会無し。
午後、遠藤へ寄って拂ひをする。大映へよる。“世界ニュース”“彼女の発言”をみる。
今回の旅行は曇後晴の形。亀井田が最悪で常盤が最良。
本堂さんから“世界評論”創刊号來る。
今日は吹雪で寒く、近來にないいやな日である。
千歳講習会生徒が“なべ”を持って來る。
新一年生、文丁が文乙にかはる。
腹の具合悪し。併しこの前よりは軽い。
発信 八木清.
○三月八日 (金) 吹雪 寒
吹雪で大変寒い。あきれた天気である。雪も相当つもった。
午前、文二、哲学、ヘレニズム。
午後、学校。三時半―六時、火曜会。深町、小松、寺崎、㐂多、高木、村岡、花岡、常木、白石、榊原の十人。米、英、ソ三国の民主主義について。教官若干の進歩あり。村岡氏の反動的なのには驚く。
国立病院院長来る。来週話をすることにする。
憲法草案発表さる。
大畑さんが大学へ入ると云ふ話。
明日の縣廰の講演の準備をする。
発信 本堂繁松.
○三月九日 (土) 曇 寒
午前、学校。
午後一時―三時、縣廰で“文化の問題”について話。低調也。役人は農村の青年に劣る。
疲勞感あり。
夜、近野元輔來る。望月さん轉任の話。
○三月十日 (日) 曇小雪 寒
午前、雑誌等をよむ。
午後、工藤さんの所へ行く。辰馬さんに会ふ。
山高の民主化末遠し。教官も生徒も恐ろしく迷盲である。啓蒙も嫌になる。見棄てるより外ない。
疲勞感あり。
今日はたまってゐた雑用を相当果した。
発信 関良一、布川角左衛門、吉田収、日本出版協会.
山新來始める。
○三月十一日 (月) 曇 寒
文二、ヘレニズム末期。
宿直。午後五時寮へ行く。物凄く寒い。
横光利一著“雪解”(養徳叢書)をよむ。
○三月十二日 (火) 曇 寒
朝凄く寒い。厳寒の寒さである。この間の雪も中々とけない。一旦家へかへる。
午前、理甲二、独語。2組は今日で終り。
午後、街を一巡してから学校へ行く。四月中休みと決定。
東京高校の件取止め。失禮な話である。
陽子と延世、外食券食堂へ行く。
橋倉さん來る。ヒーター出来。
今度の問題では深町さんの方に歩がある。大畑さんはファッショ化して行く。
煙草終了。
数日來風邪気味である。
発信 今泉三良、吉田収.
昨日午後、零下三度、今日午後一度。今日の午後から寒さがゆるんで來た。
○三月十三日 (水) 晴 寒
午前、文二、プロティノス。古代終り。來学年は中世から。理甲二、1、3、試験はハイゼンベルクを省き、“写し”(Lesebuch)の部分のみ。休暇期間の問題未決。校長、高松へ行って不在。
学校で畫食。午後一時―一時半、級長会。国立病院から自動車で迎へに來る。二時-三時半、職員に話。四時、辞す。久し振りで自動車に乘る。医者は話が早い。山高教官より進歩的である。
沼沢、鈴木、萩生がくる。
煙草配給。“みのり”二袋。
発信 須田宗興.
○三月十四日 (木) 曇 寒
午前、学校。昨日で授業終り。静かなり。
午後一時―四時半、教授会。試験は五月二日からと決定。大畑さんは冷酷の所あり。かへりに田中さんの所へ寄り、岩波文庫七冊を譲って貰ふ。
貯金申告を書く。厄介な仕事である。
受信 神谷秀夫.
諏訪行を四日に延期ときめる。
校長から東高についての話あり。
○三月十五日 (金) 曇 寒
午前、学校。生徒への通知の封筒の宛名を書く。
午後二時―四時半、火曜会。“上賢説所感”と題する白石さんの話。深町、小松、㐂多、高木、花岡、平松、白石、常木、佐藤、寺崎、榊原、黒沼の十二人。
家中の貯金合計6443円也。
森林太郎訳“ファウスト第二部”読了。
政世さんの結婚式。
“雪国”の原稿“文化の問題”書き始め。
○三月十六日 (土) 曇 寒
午前、学校。雑用。
外食券食堂で畫食。土屋氏に会ふ。
午後一時、縣。三時すぎまで話をする。民主主義について話す。今度は場所は食堂。かへりに遠藤へよる。巨人社へよる。“巨人”三月号出来。拙稿あり。
三月二十日附で従五位となる。
“文化の問題”終了。昨日5枚、今日10枚、計15枚。
受信 吉田収.
○三月十七日 (日) 晴 寒
午前十時、赤十字。山形縣文化聨盟創立。約五十名集る。午後二時畫食。新関から握飯一ヶを貰って畫食とする。午後五時近く終了。余が委員長となる。
師範から山本、林氏の手紙が届けられる。明日鶴岡へ行くことにする。
赤十字からかへりに深町さんの所へよる。明日のことを話す。
師範の生徒が原稿をとりに来る。
発信 八木清(巨人).
○三月十八日 (月) 雨 寒
午後九時師範女子部へ行く。土橋氏、山本氏に会ふ。十時駅へ。十時すぎ山形発。東京から來た汽車で相当混んでゐる。十二時新庄、すぐ連絡する。一時、余目。二時二十分余目発、大いにこむ。二時五十分鶴岡着。石黒氏迎へに出てゐる。松文工場へ行く。三時半―四時半、工員(男子)に話しする。女子の勤勞学級の開校式。五時半―六時半話をする。工場で夕食。請師等と一緒。鶴岡ホテルに至る。入浴。泊る。
発信 串田孫一.
○三月十九日 (火) 曇小雨 寒
七時半頃起床。九時半鶴岡ホテルを出る。駅まで三十分かヽる。魚を沢山売ってゐる。鶴岡発10時50分、余目着11時10分。余目発11時50分、新庄着13時。新庄で約三時間待つ。街を歩く。牛肉屋で牛肉を買ふ。地方事務所へ寄る、丹氏不在。新庄発15時55分、山形着17.30分。午後六時家へつく。
○三月二十日 (水) 曇小雨 冷
午前、学校。漬物を家へ持ってかへる。
午後、街へ行く。日活へよる。学校へかへる。
母も不愉快である。
国井健次郎來る。
尾崎紅葉の“新色懺悔”をよむ。これでも近頃の小説よりは面白い。
高山潔“亜米利加の教育”(教育科学第十二冊)をよむ。
発信 布川角左衛門.
○三月二十一日 (木) 曇後雪 寒
お彼岸のお中日だと云ふのに中々寒い。午前、家にゐて読書。アメリカ、イギリスを調べる。
午後、大内がくる。大内がかへってから外出。日活へよる。
日本は破産するより外あるまい。一切御破産にしてそれから出直すのである。
鳩山内閣が出来ればケレンスキー内閣と云ふ所である。又自由黨は英国の自由黨に当る。英国では既に終ったものが、日本ではこれから始まる。
煙草終了。みのり二袋で九日間。
哲学も変らねばならない。内容的にも形式的にも。“哲学雑誌”の如き研究室の雑誌は衰へるであらう。哲学も街頭(社会)に出るであらう。
発信 日本読書組合.
受信 串田美枝子.
○三月二十二日 (金) 晴 寒
午前、学校。俸給、新しい新円也。
午後一時―二時半、教授会。
夜、佐藤来る。
高木氏と水戸の吉野氏と入れ代り。
河上肇訳“レーニンの弁証法”をよむ。
受信 今泉三良、吉野惺.
○三月二十三日 (土) 曇後雨 寒
発信 布川角左衛門、吉田収、吉野惺、八木清、讀賣新聞.
受信 讀賣新聞.
午前、学校。
午後、ひるね。身体がだるい。手紙を書く。新聞をよむ。
○三月二十四日 (日) 晴 風強し 寒
午前、鈴木さん来る。読書。
午後一時―二時半、常会。組長選擧の件。
街へ行く。日活へよる。切符をたのむ。
午後五時開票。三沢、20、藤井、12、萩原、4、鈴木、3、小松、2。三沢さんへ行って再任を承諾させる。佐藤氏とともに隣組を廻って報告する。
留守中に神谷秀夫來る。
初めてPeaceを買ふ。余りうまくない。
発信 櫻井恒次(巨人).
○三月二十五日 (月) 快晴 暖
漸くにして春となる。道も乾いて短靴で歩ける。
午前、神谷が來る。後寮へ行く。寮生と相談する。
午後一時、国井がくる。
午後二時から火曜会。アメリカの教育制度についての座談会。五時終了。
入浴。
発信 八木清.
火曜会出席者、深町、小松、寺崎、㐂多、高木、常木、白石、佐藤、花岡の九名。
郵便貯金通帳一冊現る。現在高422円也。
○三月二十六日 (火) 晴、俄雨 暖
午前、学校。煙草特配あり。みのり一ヶ、光二ヶ。
午後、皆種痘に行く。留守番をする。後、外出。日活へよる。ニュースだけ見る。United Newsあり。切符を受取る。第五国民学校へ寄って種痘をする。
母、財産申告を持って行く。無事パス。
明日余目へ行く。用意など。
発信 武田文彌.
受信 八木清.
○三月二十七日 (水) 快晴 暖
余目行。九時半、山形駅。十時半山形発、十二時新庄、すぐ連絡する。一時半余目着。八木氏迎へてくれる。余目ホテルへ行く。四人の先生宿へ來る。
天気よく暖し。
町内会長選擧。藤井良之助に投票。
奥羽線はこの前より一層こんでゐる。
○三月二十八日 (木) 曇後雨 暖
七時半起床、八時朝食。九時すぎ国民学校へ。九時半から話を始める。ひる休み。午後三時終了。
八木さんと一緒に駅へ。四時半余目発、六時新庄着。上野行が一時間二十分おくれる。七時二十五分新庄発、九時十分山形着。凄くこむ。
桐生から紅茶着。
受信 布川角左衛門.
○三月二十九日 (金) 曇 暖
生暖い風が吹く。南風強し。14度。
午前、学校。
午後、遠藤へよる。兩羽銀行で封鎖預金記入。学校へかへる。
佐野保太郎氏脳溢血。大室貞一郎氏静岡高校校長。
種痘ついたらし。かゆい。
受信 神谷秀夫.
発信 荒木英雄、佐藤文龍.
○三月三十日 (土) 晴 暖
朝、国井來る。
十時半学校へ行く。
午後、散髪。急に暖くなって人々がうかれ出した。着飾った娘達が歩いてゐる。
煙草配給あり。みのり二ヶ半。
如何なるコースで諏訪へ行くかを研究中。常磐線が良い。
○三月三十一日 (日) 風雪雨 寒
午前、読書。ジョン・デュイ著中島愼一訳“哲学の改造”読了。河上肇著“資本論入門”をよむ。
午後、外出。日活へよる。“街の人気者”の後半をみる。停電しきりなり。
“西田幾多郎論文集第七”入手。
今日は風強く、寒くて全くいやな日である。
種痘がかゆくて困る。
母もぢき興奮して困る。
文部省の移動約4名。内容は分らぬ。
発信 田所太郎、荒木英雄、佐藤文龍.