○四月一日 (月)    晴 寒
  午前、学校。
  午後、家へ小島が来る。二時、学校。火曜会、各政黨綱領批判。五時終了。出席、深町、小松、花岡、村岡、常木、佐藤、白石の七名。
  三月三十日附発令。勝川、岡部、免官。望月、佐賀へ。高木、水戸へ。鈴木、和田、教授となる。新しく來る先生は、経国、化学、独語、図学の四人。
  村岡氏はよくよくをかしい人格である。
  “キネマ旬報”再建第1号来る。“N.D.Kニュース”No,1來る。

○四月二日 (火)    晴後雷雨 暖
  午前、学校。“旅愁”をよむ。
  午後、仝じく。川岸來る。油の配給あり。入学試験準備で教務は忙し。
  午後五時半川岸來る。一緒に川岸の家(亀楽)に行って御馳走になる。妻君に紹介される。
  “世界”(三月号)着
  発信 八木清、吉田収.

○四月三日 (水)    晴後曇 暖
  午前、雑誌などよむ。“世界”は余り感心しない。
  午後、防空壕をこわす。後、外出。日活でニュースをみる。夏の夕方の如き気分、人々がのどかに歩いてゐる。
  受信 井暮眞哉.

○四月四日 (木)    雨 冷
  午前、学校。十時から入学試験監督員の打合せ会。塩の配給あり。
  午後、学校。
  朝日新聞山形支局長堀武治郎氏來る。
  朝日の“談”を書く。450字。
  発信 今泉三良、駒宮俊太郎、井暮眞哉、布川角左衛門、日本読書組合.
  受信 八木清、駒宮俊太郎.

○四月五日 (金)    曇 寒
  入学試験。午前の部、九時―十二時。午後の部、一時―三時。理科四号室の立番。あいにく寒い。この位いやなものはない。疲れたり。
  “旅愁”(第二篇) 読了。中々面白い。
  少し風邪気で不快也。

○四月六日 (土)    雨 寒
  午前、学校。
  風邪気なり。午後、ひるね。“人間”3月号をよむ。

○四月七日 (日)    晴 寒
  風邪のつづき。一日中炬燵にあたってゐる。昨夜積雪二、三寸。
  コフマン著鈴木厚訳“世界人類史物語(上巻)”読了。
  “朝日”に拙稿(談)掲載。
  受信 吉田収(二通).
  母の仕事。障子張り。高波さんへ行く。常会へ出る。公報及び入場券來る。

○四月八日 (月)    晴 寒
  昨日と同じ。気分悪し。午後六時、37度9分。
  “資本論入門”をよむ。
  ホルツェル氏午後三時発の汽車(仙山線)で立つ。
  封鎖預金、出せる分、四月残額200円也。
  夜、小川、安部、坂本がくる。頭がからっぽのくせにえらくなったやうな気ばかしてゐる。

○四月九日 (火)    晴 暖
  昨夜、発汗。今朝六度以下。
  午前、学校。身分証明書書換へ、学割を貰ふ。旅行願を出す。
  午後、外出。山新へよる。ストライキ最中也。日活へより、切符をたのむ。遠藤へよる。学校へかへる。
  午後六時、又発熱。38度。
  “人間の恢復”書き始める。
  受信 串田孫一、山口利吉.

○四月十日 (水)    晴 暖
  昨日につづき風邪也。朝、6度2分、正午、7度、午後五時7度2分。
  午食後投票に行く(商業学校)。
  午後、菅藤がくる。“飛躍”の原稿をわたす。
  夜、高波さんに來て貰ふ。咽喉と気管支。

○四月十一日 (木)    曇 暖
  一日中家にゐる。選擧速報を聞く。自由黨優勢なり。日本の民主化は末遠し。
  朝、6度2分、正午、7度、午後五時7度7分、午後八時、八度二分。夜、寒気がして気持ち悪し。種痘のあともよろしからず。
  陽子入学式。延世が連れて行く。
  受信 社会教育協会.

○四月十二日 (金)    快晴 暑
  昨夜も発汗。
  朝、6度2分、正午、7度2分、午後3時、7度6分。
  “人間の恢復”終了。20枚也。
  夜、7度4分。昨夜より気持よし。
  発信 片岡潔、吉田収、山口利吉、土屋保男.
  受信 和郎、布川角左衛門.

○四月十三日 (土)    快晴 暑
  昨日と同じ。ひつつこいものである。午後7度7分。
  午前、常木氏來る。
  学校では今日送別会あり。
  母、午後十時の汽車で立つ。延世、駅迄行く。

○四月十四日 (日)    曇強風 冷
  今日は最高6度9分(午後七時)。今度はどうやら本当に良いらし。
  種痘の後も段々良い。

○四月十五日 (月)    曇後晴 冷
  昨夜初めて発汗せず。朝から頭痛む。午食後ねむってから快くなる。最高7度2分(午後三時)。咳も出る。煙草も悪いらしいので、しばらく中止する。
  マルクス・エンゲルス著佐野文夫訳“フォイエルバッハ論”読了。
  幣原内閣居挫りを策す。何処迄図々しいか分らん。
  今の学生は駄目である。大正の学生に劣ること格段。
  哲学の改革。日本の古典哲学は終結する。西田哲学を終焉として。
  陽子、今日から学校へ行く。
  良い天候になったのにねてゐるのは全く馬鹿らしい。それにしてもひつつこい風邪である。

○四月十六日 (火)    晴 暖
  午前、河上肇著”資本論入門”第八分冊迄読了。
  今日は具合よろし。最高6度7分(午後六時)。薬はのまず。
紘一郎と祐二郎とがうるさくて全くかなはん。家にゐるのもつくづく嫌になった。

“哲学研究”着。この雑誌はつづくとみえる。
社会教育協会から理事委嘱の辞令來る。

○四月十七日 (水)    雨 寒
  午前、家にゐる。
  午後、しばらく振りで学校へ行く。午後四時第一次合格者発表。
  マルクス著河上肇訳”賃勞働と資本”“勞賃・價格および利潤”をよむ。
  昨年末以來金はだいぶ豊富だったが、やうやくピンチになって來た。
  ねてゐる中に春になった。梅が咲いてゐる。

○四月十八日 (木)    風雨強し 寒
  午前、家にゐる。
  午後一時ー二時、教授会。賞与、俸給何時になるか分らぬよし。官僚のサボタージュ。母から金を送って貰ふことにする。塩の代175円を拂ふ。
  学校から街へ行く。久し振り也。日活へよる。ヒーターの件をたのむ。山新へよる。原稿を須藤さんへ渡す。遠藤へよる。子供の本等を仕入れる。
  風邪も本復。種痘の後もよろし。これから又活躍しよう。
  ”大学新聞”解散。五月一日から”帝国大学新聞”として出発。
  発信 母.
  受信 母.

○四月十九日 (金)    曇後晴 寒
  午前、学校。午後、同じく。
  橋倉氏来る。ヒーター修繕。
  発信 櫻井恒次.

○四月二十日 (土)    晴 暖
  午前、学校。
  午後からずっと家にゐて雑誌などをよむ。
  四月は休養の月であった。風邪も結果としては良かったとも云へる。但しこの月の収入は少かった。
  幣原内閣打倒聯盟。
  受信 八木清.
  夕食、余の全快のお祝ひとして萩餅。

○四月二十一日 (日)    晴 暖
  午前、手紙を書いたり、本をよんだり。
  午後、外出。日活で”百万兩の壺”をみる。”新世界ニュース”に人民大会あり。
  久し振りで入浴。
  発信 国井健次郎、和郎、八木清.
  受信 母.

○四月二十二日 (月)    晴、風強し 暖
  午前、学校。自由大学開講。
  午後、同じく。
  夜、富田がくる。
  母から荷物來る。電報為替来らず。
  陽子、風邪、発熱。七度七分。
  幣原内閣總辞職。後は鳩山内閣であらう。
  受信 母、田中金一.

○四月二十三日 (火)    晴 暖
  午前中家にゐる。十一時電報為替(300円)來る。漸く間に合ふ。
  午後一時ー二時、学科主任会議。干いわしの配給あり。山形駅助役來る。二十六日に話をすることにする。
  夜、佳山外一人來る。
  発信 母.

○四月二十四日 (水)    小雨 暖
  午前、学校。自由大学は金曜に出ることにする。次は五月一日。
  午後、近野がくる。後、学校へ行く。学校から街へ。遠藤、日活、山鹿、高陽堂、朝倉へ寄る。
  鈴木さん來る。
  朝倉は入れちがへになる。
  陽子全快。代りに紘一郎発熱八度。
  夜、坂部さんの所へ行く。
  浅野晃訳エンゲルス”空想より科学へ”読了。得る所多し。
  櫻も満開。今年は少し早い。
  深瀬さんにじゃが芋をまいて貰ふ。防空壕の取こわしもして貰ふ。
  発信 田中金一.

○四月二十五日 (木)    小雨 寒
  午前、学校。朝日の記者來る。
  午後一時から教授会。口頭試問の打合せ。
  明日の自由大学は延期。
  花は満開。併し寒い。今日は10度。
  風邪以来どうも疲れる。
  紘一郎、大体よろし。
  余目行の予習。
  四黨協議会開かる。

○四月二十六日 (金)    曇後晴 暖
  午前、学校。大熊氏に会ふ。余目の先生來る。明日一緒に行く。独語の問題プリント。
  午後、外出。諏訪郵便局、遠藤へよる。橋倉さんからキップを貰ふ。散髪。

○四月二十七日 (土)    晴 暖
  午前、学校。西田幾多郎著”哲学論文集第七”読了。漸くボーナスが出る。
  午後二時十分家を出る。三時山形発。物凄くこむ。詼日行の車に乘ったの乘かへなし。六時余目着。余目ホテルへ。
  食後国民学校へ行く。風呂に入る。
  岩波茂雄氏四月二十五日死去。

○四月二十八日 (日)    晴 暖
  朝、国民学校へ行く。九時―十二時、講義。
  午後一時―二時、講義、二時―三時、質問。中世からカントの前迄。
  四時半余目発。結城さん、岸氏と一緒になる。八時山形着。汽車はよくこむ。

○四月二十九日 (月)    晴 寒
  天長節、式もなし。
  午前、須田宗興がくる。
  午後、少しひるね。村岡さんがくる。後、外出。遠藤、日活へよる。
  原、田村がくる。
  余を除いて家中風邪也。

○四月三十日 (火)    晴 暖
  入学試験、二次試験、口頭試問。余の掛りは三号室(理科)。メンバーは小松、常木、和田(初めは田中)。午前は八時―十二時、午後は一時―四時。変に疲れるものである。
  未だ内閣が出來ない。
  皆の風邪、昨日よりはよいらし。
  桑の芽が出て來た。
  発信 母、八木清.